煌めきの彼方

□穏やかな光の中で
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「ふふん…ふふん…ふふ〜ん…」


鼻歌を歌いながら庭で洗濯物を干すノリコ。

そのノリコの足元で2匹の仔獣がじゃれあいながら遊んでいる。
穏やかな陽射しがその1人と2匹をやさしく包み込む。

それを居間の窓からやさしく見つめる黒髪の美丈夫。

おだやかで静かな日々はそれでも
彼にとっては得がたい大切な日々。

知らずその目元にやさしい輝きが灯る。

イザークは今ここにある穏やかな日常を心より大切に思っている。

天上鬼として生きるしかなかった日々はもう遠くにあり、
1人の人間として生きる日々は彼に平穏をもたらした。


イザークの視線に気づいたのかノリコが振り向いて微笑みながら手を振る。

それに答えて彼も手を上げた。


「もうすこし待ってて。

これ干しちゃうから」


ノリコの明るい声が庭に響く。

その声すらも彼に日々の幸せを、穏やかさを感じさせる。

その風景の中に自分も入りたくなった彼は、
居間を出て庭へと向かった。


突然の突風にノリコの手から攫われた洗濯物が宙を舞った。

それに気づいたゴルヴァはあわてて洗濯物を拾おうと駆け出したが、
宙に舞った洗濯物は家から丁度出てきたイザークが
いともあっさりと跳躍で捕まえてしまう。

それを目の当たりにしたゴルヴァは
すねたようにイザークに背を向けた。


「うわ〜!ありがとう、イザーク。助かっちゃった」


イザークは屈託なく笑うノリコに洗濯物を渡すと
ゴルヴァへと向き直りその小さい頭を撫でる。


「すまんな、ゴルヴァ。

お前が取りにいってくれるつもりだったんだろ?」


やさしく語られる声音に、そっぽを向いていたゴルヴァの態度が軟化した。

そこへシルヴァが近寄ってきてゴルヴァを鼻でつつく。
まるですねるのはやめろといわんばかりだ。

仕方なくといった感じでゴルヴァは
イザークに向き直るとイザークの手をなめた。

仲直りといったところである…そこへ


「シルヴァって…ゴルヴァの世話焼き奥さんみたい…」


とノリコの無邪気な声が響く。

あまりの無邪気さに思わずイザークが笑い出す。
当の本人たちはどういった表情をしてよいのか
わからないらしくきょとんとしていた。

その姿がまたも笑いをさそう。

庭にはノリコとイザークの幸せそうな笑い声が響いた。


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