煌めきの彼方

□永遠の中の刹那〜後編〜
1ページ/5ページ

人はその心の中に光と闇を併せ持つ存在。
それゆえに何かのきっかけでそのバランスを失うことが多々ある。

その度にそのバランスを元に戻すために
彼ら二人は常に存在するのである。


刹那をいきながら永遠を生きるもの…

それがイザークとノリコということになる。


「ことは急を要する。

ずっとこの山を守ってきた結界が力をなくすのももう時間の問題なのだ。

朝湯気の木の精霊ががんばってくれてはいるが、

やはり人は魔に魅入られやすい。

魔に魅入られた人間ほど脆いものはない。

いまだかろうじて結界が残っている今しかもう機会はない。

力を貸してくれ。イザーク・キア・タージ」


ゴルヴァが頭を下げる。

朝湯気の木と聞いてイザークが真っ先に思い出したのはイルクのことである。

彼の者も精霊であった。

そしてここまでの森の中の様子を思い出す。

懐かしいとどこか知っているようだと感じたことに納得する。

この森はあのザーゴとグゼナの国境の森。

イルクとであったあの森である。

ならばこの森の行き着く未来も
イザークは知っている。

魔に取り込まれこの清浄な森は

魔のもりへと変わる。


「どうすればいい…俺は何をすればいいんだ?」


イザークはノリコと2人で
森の人間たちを解放したときのことを思い出す。

その後彼らにはずっと世話になった。

いつも2人の危機を助けてくれた森の住人たち。

あの森の住人たちはこんなにも長い間、
魔に囚われていたのだと知る。

ゴルヴァはひとつ頷くと、少女を見る。

そして静かに話しかけた。


「姫早く身体にお戻りを…お別れです。

イザーク・キア・タージがここにいるならば姫が身体にもどられて

彼がその力を解放すれば、その瞬間に扉は開かれます。

そして彼の世界へと導かれるでしょう。

姫。あなたの傍にいられて私は幸せでした」


「本当に娘のように思っていました。

私もしあわせでしたよ」


ゴルヴァとシルヴァは本当に幸せそうに語る。

そして少女に別れを告げた。


「あ、ありがとう。ゴルヴァ、シルヴァ。

私もあなたたちといられて幸せだ…った…」


少女の姿が空気に溶けるように消えてゆく。

そして寝台で寝ていたからだが起き上がる。

その腕に抱かれていた剣がイザークの目にはっきりとその姿を現した。

剣はほどなく眩しい光を発し、
その光に包まれたとき、少女はすべてを思い出した。

少女が抱えている剣はあの日、
ノリコが気に入ってガーヤから譲り受けたその剣である。

少女の瞳はしっかりとゴルヴァをシルヴァをそしてイザークを見る。


「すべて思い出した。

そう…私はこの世界にいられないんだ…

それがこの世界のためなのね…

それが光の意思なら私は従わなくてはいけない…」


少女は目に涙を溜め、自分の今ある状況を受け入れようとしている。

そんな少女の下へ2匹の獣がそっと近づく。

少女は2人をその両手で抱きしめると
詰まりながらも言葉をつむぐ。


「ゴルヴァ、シルヴァありがとう。

いつも私を守ってくれて…

いつも傍にいてくれて…本当にありがとう」


2匹の獣は頭をあげその鼻先を少女の顔へと近づける。


「2人がいたから私ぜんぜん寂しくなかったよ?

精神体でも辛いなんて思ったことなかった…」


なおも別れを惜しむ少女に
言い聞かせるようにゴルヴァが話す。


「さあ、姫。お急ぎを…

もう時間がありません。

彼の者の手がもうすぐ傍まで近づいています」

「姫、彼の世界で再び生を受けたときあなたさまの記憶に

この世界のことは残りません。

でも、それでも、どうかお健やかでお過ごしください。

そして、この世界を必ずお救いくださいね」

少女は、小さく頷くと少し寂しそうに微笑んだ。

がすぐにその笑みは明るく力強いものへと変わる。


「それが私の今しなければいけないことなのね…

だったら私はそうする。

きっとその先に道はつながっているから…」


イザークはノリコの自分ができることを精一杯する。
そうすればすべてが良いほうへと向かってゆくと
常に語る言葉を思い出す。

そして彼もまた今自分がするべきことを
しなければならないと思うのである。

今このノリコとなる少女を異世界に送り届けるのが、
彼の成すべきことならばそうすべきであると

自分の中にいる自分でないものも
そうイザークに伝える。

この身体の持つ特別な使命とは
これだったのかもしれないとイザークは思った。

イザークが意を決してその瞳を上げると少女の瞳と視線があった。

少女は力強く微笑むとイザークに告げた。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ