煌めきの彼方

□永遠の中の刹那〜中編〜
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「あなた…大丈夫?ひどい怪我…」

そう声をかけられてイザークは意識を取り戻した。
とたん、全身に激しい痛みが走る。

痛みをこらえながら声の主を見定め
彼は息を飲んだ。

体のまわりに淡い金色の光を纏い、
自分を心配そうに覗き込むその少女は、
まちがいなく彼にとってこの世の最愛の存在ノリコその人である。


「ノ、ノリコ?おまえもここにとばされたのか?」


そう声をかけられて少女は不思議そうに小首をかしげた。


「ノリ…コ?それは誰?あなたの大切な人?飛ばされた?

いいえわたしは生まれたときからここにいるわ」

「何を言ってる…?」


彼の端正な顔がみるみる苦痛と戸惑いに歪む。
その少女の気配はまちがいなく―彼がまちがえるはずはない―
ノリコのそれなのだが、目のまえの少女は
まるでイザークのことなど知らないようだ。


「ああ、あなた。とてもつらそう。待ってって。
すぐにきずを直してあげるから。」


少女はノリコと同じ笑顔でイザークにそういうと、
たおれている彼のそばにひざまずき、自らの手をかざした。

その手にやわらかい光がともり、
彼女が手をかざすだけでかざされた場所の傷が
みるみるふさがっていく。

傷がふさがるにつれ痛みも徐々になくなり、
彼は体をおこせるようになった。

先ほどまでの痛みがうそのようである。

とてもノリコにはできない芸当だ。


「もう、つらくない?」


少女は優しい微笑をたたえ聞いた。


「ああ、もう大丈夫だ。

すまん、世話をかけた」

「お礼なら精霊たちにいってあげて。

彼らが私に教えてくれたの」

「精霊?あんたには見えるのか?その姿が」

「ええ、だって私のお友達だもの」


屈託なく笑う。
そのしぐさ表情それらはすべてノリコと同じである。

そういえば、ノリコにも精霊がみえる。
どんなにエネルギーがかすかであっても
彼女だけはイルクの姿が見えていた。

 似て非なるもの…
目の前の少女はなぜかノリコであってノリコでない存在。
イザークはそう認識した。

そして自分もまた今はそういう存在のような気がした。

体の回復力がそれを物語っている。

そしてずっと彼を悩ませ苛み続けた
体の奥にあるはずの力の存在はない。

ある程度の能力のある能力者といったところだろう。


「おれはイザーク。あんたは?」

「私?わたしに名前はない」

「名がない?」

「名前はいらないから。そしてあってはいけないから」

「名前があってはいけない?どういうことだ?」

「さあ?わからない。

シルヴァとゴルヴァがそういうから…

あっ!シルヴァが呼んでいる。

帰らなきゃ。さよならイザークさん」


少女はその身を翻しどこかへと去ろうとしている。

思わずイザークは彼女を引きとめようとその腕をつかんだ。
が、目の前に見えている腕はつかめない。
確かにそこにあるようにみえるのにだ。


「私は影…幻…姿はここにあってもここにいない…」


そう悲しそうにいうとその姿は掻き消えるようになくなった。


イザークの心を突き抜ける衝撃。

いつも当たり前のように触れていた姿に触れられない。

ノリコであってノリコでないと分かっていても、
いとしい者そのものの姿が自分の腕の中から消えることに
彼は耐えられなかった。

しばし己の腕を見つめ彼は唇を強く噛み、

声には出さず突き上げる衝動に耐えた。


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