煌めきの彼方

□永遠の中の刹那〜前編〜
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「長…この夜明けぐらいかと思われます…」


まわりを砂漠に囲まれ、
城壁に守られ栄華を極めている光の国、エンナマルナ。

この後この地を襲う崩壊の兆しもまだないはるか昔のことである。


「そうか…とうとう時が来たか…」


族長はふっとひとつ息を吐くと、気を引き締めるように呟く。


「はっ、約束の時がまいりました」

伝えに来た部族の者もどこか緊張した声音である。


「古からの予言どおりこの光の地エンナマルナに…」

「では、我らも古の取り決めどおりに約束を果たさねばなるまいな…」

「はい。すぐに準備にかかります」

「ああ、頼んだ。」


族長は古からの約束のひとつを滞りなく果たせることに安堵した。

それはこの世界の命運をかけた約束。
これが果たされなかったらこの世界は崩壊する。

闇に魔に蹂躙されつくされるであろうと予言された約束である。


「これで、この世界は守られる。

我らがこの世をさりしはるか彼方の未来においても…。

わが一族は光に守られし一族。

光のために戦う一族。

その伝統を費やしてはならぬ。

これもまた約束のひとつであったな…」


 この後、エンナマルナは時の流れとともに徐々に衰退していくが、
人々の心から光のために戦う一族であるという誇りが消えることはなかった。

二つ目の約束もまた果たされるのである。


 穏やかな日差しの中、
黒髪の美丈夫はその瞳をゆっくりと開いた。

ふと自分の傍らに眠る愛しい存在を目にしてやわらかい微笑を、
その目元に浮かべる。

安心しきって眠る、かけがいのない彼女の寝顔から目が離せない。


彼は、体を起こしひじを突くと時がたつのを忘れてその愛しい寝顔に見入った。

開いた窓から一陣のやわらかい風が吹き込みとても心地よい。

その風が彼女のほほをなでた時、彼女は目を覚ました。

ねぼけ眼でぼんやりとした視線はそれでも
彼のこの上なくやさしい瞳をみとめ、極上の笑顔をなげかけた。


「おはよーイザーク」


彼は言葉を返すかわりに、
その笑顔に答えるように彼女の額に軽く唇を落とした。


 イザークとノリコは世界に光を分ける旅の後、
ここグゼナとザーゴの国境付近の郊外に居を構え落ち着いた。

以前怪我をしたノリコを休ませるために逗留した街である。

2人の想いがつうじるきっかけとなったことが
この地を選ばせたのかもしれない。

ここに落ち着くにいたってゼーナとガーヤの双子の姉妹の
尽力があったことは言うまでもない。

もちろんイザークに全てを預けるといったバラゴも
アゴルとジーナの親子も同じ街に住んでいる。


“天上鬼”と“目覚め”その運命に翻弄され、
不安と恐れの中にいた2人の姿はそこにはない。

2人はこれまでの時間を取り戻すように
おだやかであたたかい生活を送っていた。


 なかなかベットから出ようとしない
イザークの様子に戸惑いながらも、
ノリコはベッドからでようとその身を起こした。
とたんに後ろからイザークにだきしめられてしまう。


「ど、どうしたの、イザーク?」

「もう少しこうしていたい。ダメか?」


ノリコは耳まで真っ赤にしながらも、小さく頷いた。


「い、いいよ。

イザークがそうしたいならいつまででも」


彼女はやさしい微笑を彼に向けると、
その広くたくましい胸にその華奢な体を預けた。



イザークはその腕にさらに力を入れた。
だが、ノリコのやわらかい体はその力強い腕を包み込み
彼にさらなるぬくもりを与える。

彼はノリコをだきしめながら、
今の自分の幸福をかみ締めていた。

人間として本来自然に生きる権利すべてを奪われ、
あきらめるしかなかった自分、
ただ我と我が身を呪い人と極力かかわらず、
逃げるように生きるしかなかった自分と、
そのすべてを取り戻す道をともに
切り開いてくれたこの世に2人といない最愛の存在。

そのぬくもりを自らの腕に体に感じ、
彼はひとつ幸せなため息をつく。

そして常の如く静かに誓う。

(おれはノリコを絶対に守り抜く。

絶対に離さない)


それは以前のように自分を鼓舞するようなそんな誓いではない。

人として、一人の男としてのごくごく普通の誓い。

静かだが、決して揺らぐことのない強くしなやかな誓いである。

ふっと腕の力を抜くとイザークはノリコを自分のほうに向かせ、
その愛らしい唇に口づけをした。


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