月下氷華

□君シリーズ 君想う詩
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いつからでしょう?君を目で追うことが多くなったのは…

いつからでしょう?日々変わる君から目が離せなくなったのは…

そしていつから僕は自分の気持ちを持て余すようになったのでしょう…


弁慶は、帰り道を急いでいた。もう、逢魔ヶ刻ともいえる時刻。

夕闇で迫りすれ違う人の顔も、見えにくい。

“魔に逢ってもわからない刻”といわれる所以である。

弁慶は、ふと加茂川のかわらに座り、暮れ行く風情を眺めている
小さな背中をその視界に捕らえた。

いつもの見慣れた背中。


(困ったひとですね。

こんな時刻にこんなところにいるなんて…

しかも…供も連れず…)

弁慶は眉根をよせ、しかしすぐに何かを思いついたのか
おもしろそうな微笑を浮かべると、
その無防備な背中に気配を消して近づいた。

そしてふわりと後ろから、小さな背中をやさしく抱きしめ囁く。


「何をしているんです?

こんなところで…もう夜も近いですよ?」

だが、彼女の反応は、弁慶が思っていたいつものものとは違っている。

驚くでもなく、振り返るでもなく、顔を俯けただ小さくその肩を震わせる。

怪訝に感じた弁慶がその顔を覗き込もうとすると、
見られたくないのか望美はスッと顔を反対へと背ける。

だが、その頬に伝う雫を見逃す弁慶ではない。

「どうしたんです…望美さん。

泣いているんですか…?」

自分が泣いている事を悟られた望美は、
あきらめたようにその涙を手でぬぐうと、
弁慶に振り返り淡く微笑む。

「ばれちゃいましたね。

弁慶さんにはかなわないですね」


弁慶に向けた視線を沈み行く夕陽へと向けなおし、ふっと息をつく。

「夕陽があまりにも綺麗だから、

ちょっと切なくなったんです…」

「あなたを泣かせるなんて、いけない夕陽ですね…

もう、気持ちは落ち着きましたか?」

弁慶は望美をさらに強く抱きしめるとやさしく微笑みかける。

彼は気づいている。

望美が切なく想ったのは、夕陽ではないことを…
その夕陽に何を重ね合わせているかも…

だが、それをここで問う事はしない。

彼なりの優しさなのだろう…

だが、弁慶の表情はとても辛そうだ。



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