月下氷華

□月の雫シリーズ 寒月―冷たい瞳が見る先は―
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銀に呪術がかけられていることをヒノエの報告で確認した弁慶は、
いつもの厳しい顔で次に打つべき手を考えていた。

望美とともに生きるため、
そのためにはこの現状をなんとか転換しなくてはならない。
だがそれは決して失敗は許されない厳しい状況であった。

ひとつ間違うと全てが水泡へと帰してしまうだろう。

それだけに弁慶は熟考を重ねるのである。


その弁慶の思考をさえぎるように弁慶の室を訪れるものがいた。


「弁慶、いるか?」

九郎のいつもにもまして元気な声に少々うんざりしながらも、
弁慶は穏やかに答える。


「なんですか?九郎。

もう少し静かに入ってこられないのですか?君は」


呆れたような弁慶の声音に少々間が悪かったと思ったのか、
九郎が困ったようにあやまる。


「す、すまん。何か用があるならあとでもいいんだが…」

そんな九郎の素直な反応に弁慶はくすっと笑う。

「いいですよ、別に。僕に何か用ですか?」

弁慶の雰囲気が柔らかいものに変わったのを察した九郎は、
この機を逃すまいと話し出す。


「実は泰衡がお前と俺に見せたいものがあるので、
銀についてきてくれと伝言してきた。

それでお前のところへやってきたんだが…」


「九郎、そんな大事な用事を後回しにする気だったのですか?

相変わらず、困った人ですね、君は」


最後のほうは笑いをこらえ切れなかったのか弁慶の声が少しかすれている。

またも九郎はあやまる羽目になった。

「す、すまん」

顔を真っ赤にして謝る九郎に弁慶は思わず微笑むと、
さあ、行きますよと彼を促して自分の室をでた。


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