月下氷華

□月の雫シリーズ 孤月―あなたは何を思ってますか?―
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奥州平泉 ここに望美たちがたどり着いて、
一週間ほどの間はもともとこちらに所縁のあった弁慶や九郎は、
御館や嫡子泰衡と旧交をあたためたり、
望美や朔などほかの者たちも平泉の町を散策したりなどして
何かと忙しく過ごしていた。

季節は晩秋から初冬へと静かに移行しつつあった。

望美が朔と話でもしようと彼女の部屋を尋ねると、
部屋に入る前に朔の深いため息とともに小さな呟きが聞こえてきた。


「兄上…どうして…」


朔の兄であり、八葉であった梶原景時は源氏の棟梁頼朝の命令に逆らえず、
九郎義経を追い、望美たちと対立する立場となっていた。

朔は兄の複雑な立場を理解しつつも親友である望美の傍を離れることができず、
望美たちについてここまでともにやってきたのである。

だが、頭では兄の立場を理解しながらも、
感情がそれを理解できない…

そんな想いを朔のため息から感じ取った望美は、
朔の部屋を訪れるのを躊躇し、
そのまま高館の庭へと降りた。

庭では譲が白龍に手伝ってもらいながら
、梶原邸のときのように花を植えており、
その傍には兄の将臣が弟をからかいながら笑っている姿がある。



望美はこの二人が一緒にいる姿に安堵を覚える。

異世界に飛ばされてから、
はぐれた将臣はなぜか敵の平家の総領―還内府―となっており、
先の源平合戦においては敵、味方となって剣をかわしたこともあったからだ。

幼馴染であった自分もとんでもなく動揺していたのである。

血を分けた兄弟である譲がそれ以上に
どうしてよいか判らぬほどに取り乱していたのは言うまでもない。

兄に対する反発から、
表立って態度には表してはいなかったが、
その心中やいかに…といったところだろう。


それだけに望美には今の朔の戸惑いと悲しみが理解できてしまうのである。


二人の様子を静かに眺めていた望美に白龍が気づいた。


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