月下氷華

□月の雫シリーズ 残月―あなたをおいて帰れない―
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壇ノ浦で平家を滅ぼした望美たちを待っていたのは、
平家のように源頼朝に追われる日々だった。

途中危機一髪のところで、
平泉からやってきた銀に助けられて、
なんとか望美たち一行は頼朝の手を逃れた。


逃れた先は晩秋の奥州平泉。
北へと逃れたのである。

平泉に着いた望美たちを、奥州平泉の当主、
藤原秀衝は頼朝に追われていると知っていても、
暖かく迎え入れてくれた。

そして高館を与えられ望美たちはひとまずそこへ落ち着いた。

それぞれに与えられた室に入り望美は、ほっと安堵の息をついた。

壇ノ浦から平泉への道のりは決して甘くはなかった。

幾度か源氏の御家人につかまりそうになり、
逃げ出すこともしばしばであった。

その中で九郎は気弱になり皆を救うため自ら鎌倉へと、
赴こうとしたりもして銀に出会えなければ、
ここまで無事にたどり着けたかどうかも怪しかった。


望美は、見知らぬ土地とはいえ敵に囲まれることなく、
安心して眠れることは何よりもうれしかった。

そんな望美の部屋の前に人の気配がする。

その気配は望美にとっては、
この上なく安心できる気配であった。

その気配が動く。

「望美さん、入ってもいいですか?」


望美はその顔に満面の笑顔を浮かべると、
自ら部屋の入り口に向かいその人物を招き入れる。


「弁慶さん、どうぞ」



弁慶は望美に迎え入れられるまま部屋へと入ると、
やさしく望美を抱き寄せ、その唇に口付ける。


「大丈夫ですか?望美さん。
なれないところでしょうが、ここならひとまずは安心です。
御館は心の広いお方ですから、
きっと望美さんのことを気に入りますよ」


弁慶は、なれぬ場所で望美が
不安に思ってないか心配で様子を伺いに来たのである。

「大丈夫です、弁慶さん。
弁慶さんと一緒に来るって決めたときから
覚悟はできていますから…
きっとこの運命を変えて見せます」


望美の瞳からは、その強い意志が感じ取れる。

思わず弁慶は、その迷いのない瞳に微笑む。

「また、貴女を巻き込んでしまいました。
それでも今の僕は、もう貴女を離せません。
よかったんですか?望美さん…本当に…?」

弁慶の瞳は哀しげな色を称え、望美を見つめる。


「私がついてきたくてついて来たんです。
だって弁慶さんの傍を離れたくなかったから…」


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