星光夜想曲

□ずっと一緒
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平家との戦も終わり9ヶ月が過ぎようとしている頃、

五条堀川の九郎の邸では、
九郎がひとり何事か考え事に没頭していた。

それを見かねた弁慶が九郎に声をかける。



「九郎どうしたのですか?

何をそんなに考え込んでいるのです?」


弁慶は九郎の考え事の内容を大体は察していたが、
あえてなにも知らない素振りを決め込んだ。

九郎は弁慶に話しかけられふと我に戻る。
そしてぽつりぽつりと話し出した。



「あ、いや…めでたいことだとは思ってる。

だが、相手が誰かわからないってのが気になる…」



弁慶はやはりと一つ息を吐くと九郎に確認するように呟く。



「景時のことですか?」

「あ、ああそうだ」



弁慶は九郎を困ったように見つめると、うすく微笑んだ。



「景時が北の方を娶ったのがそれほど気になりますか?

なら、九郎も娶ったらいかがです?
そういえば、藤原の姫などから文が届いていたようですが…」


「そういうことじゃない。

景時の北の方が誰かわからないのが気になるんだ。

俺が別に誰かを娶りたいわけじゃない」


「そのうち景時がなんか言ってくるんじゃないんですか?

それまでほっておいたらいいんですよ」



弁慶はこの話はこれでおしまいといわんばかりに言葉を切る。
さすがの九郎もこれ以上この話を続けるのは得策ではないと思ったのか、
それ以上は何も話さなかった。

そこに丁度よく、なのか悪く、なのか嫌にご機嫌な景時が姿を現した。



「ふんふ〜んふ〜ん♪」



まるで洗濯物を干しているときのような鼻歌つきである。
その景時の上機嫌さが妙に気に触る九郎である。



「あれ?どうしたの…二人とも…

なんか様子が変だね?ふ〜んふん♪」



二人にそう話しかけながらも景時の鼻歌は止まらない。

とうとう九郎が切れた。



「景時!その鼻歌はなんだ?

話す時くらいやめろ!」



いきなりの九郎の激昂に少々驚いたようだが、
上機嫌の景時はそれほど九郎の怒りを気にしていないようだ。



「あ〜ごめんごめん。

なんか自然とでちゃうんだよね〜

気を悪くしたのなら許して?」



あまりの能天気さに九郎は怒りの矛先を失い、脱力した。



「もう、もういい。

俺はちょっと庭で剣でも振ってくる」



そういうと九郎はいたたまれなくなったように部屋を飛び出した。

そんな九郎の様子を見て景時は不思議な表情をしている。

ずっと二人のやり取りを聞いていた弁慶は
思わず、笑いだしてしまった。



「な、なに?弁慶、どうしたの?」



いきなり笑い出した弁慶に驚き景時はあわてて弁慶を振り返った。


「いえ…あまりにも景時と九郎の様子がおかしくて…」



弁慶はよほど二人のやり取りが面白かったと見え、
この男にしては珍しく笑うことがやめられないようだ。

その上、



「…ね、弁慶?

なんで九郎はあんなに怒ってるのかな〜?」



という状況をほとんど把握していない景時の問いかけに
さらに弁慶は笑いに誘われる。



「ふふ…ははは…景時…

僕を笑い死にさせる気ですか…?

…ははは…」



とうとう弁慶は目
に涙を浮かべおなかをかかえて笑い出した。

景時はますます困惑してしまい、
先ほどまで聞こえてた鼻歌は鳴りを潜めた。


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