煌めきの彼方

□永遠の中の刹那〜前編〜
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ガーヤは店のカウンターの上におかれた剣に見入っていた。

その剣はずいぶんと古い時代に作られたであろうことが、
うかがわれる品であった。

剣の柄にみごとな意匠が施されている。
その意匠は美しい鳥が羽を羽ばたかせて、
飛び立つかのような羽の装飾になっていた。

人を傷つけるための道具であるのを
わすれるようなすばらしい出来である。


「おい。ガーヤじゃまするぜ」


ドアを勢いよく開けてバラゴが店に入ってきた。

その音にガーヤははたっと我に戻った。


「あ、いらっしゃい。バラゴ…」

だが、まだ少し呆けている。
そんなガーヤの様子にバラゴが不審を抱いた。


「どうした、なんかあったのか?

元気ねえな」


「あ、いやそういうわけじゃないんだがね。

これ、いいだろう?」

「ん?なんだそりゃ。

なんてことはないただ古いだけの剣じゃねえか」


バラゴは剣に少し視線をおとして覗き見ると、
たいして興味もなさそうに答えた。


「まあ、たしかに単なる剣といってしまえば、
そのとおりなんだが…

あたしゃ、なんかこれが気に入っちまってね。

なんでだか知らないが気になってしょうがないんだ。

それになんだか懐かしい感じがしてね…」


特別な性質の鋼で作られたわけでもないどこにでもある剣、
そうであることには変わりはなかった。

だが、なぜかガーヤは心魅かれるのである。


「しかし、そんな古い剣が売り物になるのか?」

「ああ、ま、そんなに高値にはならないだろうがね。

この柄の装飾なんかはえらく凝ってるからね…

刀身を新しくすれば使えないこともないだろう…」

「へぇ〜そんな女が喜びそうな剣…

男だったらいらねえだろうが…

少なくともオレはいらねえな…

へっ、格好悪くていけないや」

「ま、あんたならそうだろうね、バラゴ。

何もあんたに買ってくれとはいわないさ。

ところで今日は何か入用かい?」


バラゴに自分が感じたこの剣のすばらしさを
話しても埒があかないと踏んだ
ガーヤはさっさと話題を切り替えた。


「ああ、実はな次の仕事に使う道具を

イザークといっしょに探そうと思ってな…

待ち合わせだ」

「そうかい。

イザークが来るのかい。

じゃあ、ノリコも一緒だね」


知らずガーヤの頬が緩む。

ガーヤは、
この2人が穏やかでしあわせな生活を営んでいることを、
ほかのどの仲間たちよりもうれしく感じている。

2人の幸せな笑顔を見るだけで、
心があたたくなり満たされていくのである。

灰鳥一族の女戦士として
腕をならしたガーヤの姿はそこにはない。

ただの親ばかの子供が可愛くて仕方がない、
そんな母親の顔がそこにはあった。


「なんでい…気持ち悪いな〜。

そんなにニヤニヤ笑ってるんじゃねえよ」


そうガーヤをからかうバラゴもまた、
男としてほれ込んでいるイザークの穏やかな顔を見るのが
たまらなくうれしいくちである。

あの過酷な世界を救う旅をともにした仲間たちは、
みな一様に同じ思いであろう。

人生の全ての苦しみ悲しみを短期間で味わってしまったであろう2人に
向けるまなざしはこの上なくやさしく、暖かい。


「しかし、何度思い返しても

あの2人のじれったさったらなかったね〜」


ふとガーヤが何気なく呟く。
それを聞き逃さなかったバラゴが答えた。


「俺たちはなにも知らなかったからな…

あいつとノリコの背負ってるものを…

この街でノリコの傷がいえるのを待ってるとき、

ついついからかっちまってな〜

あいつに胸倉つかまれてたのまれたときには、

ほんとまいったぜ。

何がこいつにこんな顔をさせるんだ?ってな。

ほしけりゃほしいって手にいれりゃいいって

単純に思ってたからな…

ノリコがあいつにほれてるのは

誰が見てもわかってただろ?」

「ふふ、相変わらずガラが悪いね〜」

「バーナダムのことにしてもそうだ。

それがあいつの背中を押すならって

険悪な2人をなんとかしようとしていた

アゴルをとめたしな…で、

その後2人の背負ってるものを知って、

あいつの表情に納得したわけだ。

そりゃ、色恋なんてぶっ飛ぶよな。

で、オレはまたあいつの男気に惚れ直したって訳だ」


いかつい顔がくしゃっと崩れ、まるで幼い子供のように破顔する。
この男の人の良さがにじみ出る笑顔である。

ガーヤもついつられて笑い出したそのときうわさの2人が姿を現した。


「おばさん、こんにちは」

かわいらしい笑顔でガーヤに挨拶するノリコの横に、
バラゴに惚れ直されてしまった美丈夫は涼しげな顔でたっている。

2人の姿を見たガーヤとバラゴはまたどちらからともなく笑い出し、
今、店にきたばかりの2人は訳がわからず顔を見合わせていた。


「何をそんなに笑ってる?」


涼しげな瞳に少し怪訝な表情をうつしながら
イザークはどちらともなく話しかけた。


「いやぁ〜なんでもないよ、イザーク。

すこしばかり昔話に花がさいただけさ。」


と、ガーヤが答えるが、それでもまだ笑いは途絶えない。


「え〜?どんなお話だったの?教えて」

人懐っこい顔をしてノリコがガーヤに尋ねた。


「……ノリコ…」


しばし絶句したイザークは困惑顔でノリコを見た。
時に彼女のこういう無邪気さは彼を戸惑わせることがある。


「だって、おばさんもバラゴさんも本当に楽しそうなんだもの」


彼女は屈託なく笑う。
そんな彼女の笑顔にバラゴもガーヤもさらに笑いが止まらない。

一人取り残された感のあるイザークも
いつのまにかつられて薄く笑う。

おだやかな午後のひと時である。


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