†童話†
□final EMOTION
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海岸に独り立ち、ただ目に入るものを、何の感情もなく眺めていた。
毎日、毎日、ラクスの目を盗んでは、病室を抜け出し、意味もなくそこに立ち尽くす。
誰かが連れ戻しに来るまで、ずっと。
「…………」
連れ戻して欲しいからじゃない。
海が見たいわけでも、死にたいわけでもない。
本当に意味なんて、なかった。
(…あーあ)
自嘲気味に溜め息をつく。
しかし、それは音にもならず、空気に溶けた。
「………」
キラは、言葉を発することが出来ない。
正確には、“出来なくなった”。
キラが失声症を患ったのは、戦争が終わって直ぐだった。
フリーダムから投げ出されて、漂っていたところをアスランに発見された時には、既に言葉を失っていた。
世界中で最も特別だと云われた身体は、あまりにも脆く、無力だった。
空には白い月が上り、他には雲一つない。
嘗て自身が幼年期を過ごしていたとは思えない程、今は月が遠かった。
(…もう一回上る体力なんて残ってないしなぁ)
そう考えて、一瞬表情が歪む。
しかし、それも直ぐに消え、また無感情に、キラはただそこに立ち尽くしていた。
「キラ!」
遠くでラクスの呼ぶ声が聞こえる。
しかし、キラは反応を示さない。
自身を病室に縛り付けようとするラクスが、キラは堪らなく疎ましかった。
彼女が何を知り、何を考えているのか、キラには全く分からなかったが、少なくとも、キラをアスランとカガリから無理矢理引き離した時点で、彼女はキラの中で以前とは違う存在となっていた。
「キラ!」
少し苛立ちを含んだ声がすぐ近くに迫っても、キラは振り向こうとしなかった。
(あーうるさい)
ただぼんやりとそう思うだけ。
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