「Suck-A-Rocka」Works

□テンション下がる話
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小さな町のほんの小さな遊園地、その中でも特に人気のないお化け屋敷の受付で僕は時間を持て余し気味にただただ座ってたんだ。

 降りしきる5月の雨は止む事を知らず、また「ヒュー、ドロロ」といったお化け屋敷のおどろおどろしいBGMも雨に負けじと止む事を知らない様子。

 ・・・テンションは下がる一方です。

 ふと隣を見やると同僚の辻君がひどく疲れ果てた様子で座ったまま眠りこんでいて、自分は今一人である、と改めて自覚せざるを得ない。

 ・・・テンションは下がる一方です。

「時間は流れる事を忘れ、灰を嘗めるようなこの感覚と共にいつまでもこの場に居座り続ける」
 5月の雨が不正確に刻み続けるリズムがそんな妄想を誘発し始めたその時、
ふと思い出したのは1年前の同じような時分の事。

 仕事帰りの明姫幹線東行き車線、
僕のカーステはテープとラジオしか使えなくて、
当時まだ発売して間もないスリップノットの新譜を録音したものを爆音で流しながら車を流していた。

 ボーカルのコリィが感極まって叫んだその時、僕もまた感極まって車内で叫んだ。
するとそこへ見知らぬ猫も負けじと感極まって飛び込んで来た。

 
     「           」


 あまりの一瞬の出来事にブレーキを踏む間もなく、次の瞬間スリップノットの演奏とは明らかに異なる生々しい鈍い音を全身で感じた。


 思わずバックミラーを見ると後続車の助手席に座っていた女の人が今にも泣き出しそうな顔で運転席に向かって何か話していた。

 猫を轢き殺した車は、今はもう、ない。

 明姫幹線の別の地点で信号待ちしていたところを追突され廃車になったから。

 5月の雨の不正確なリズムの上で猫を轢き殺した思い出がこちらをちらちらと窺いながら踊っている。

「おまえもこっちで踊ってみるかい?」
 
 隣の辻君は眠りっぱなし。

 ・・・テンションは下がる一方です。

                         (完)

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