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□宝物のオモチャとあきらめた自分
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 まるでそれは現実味のない世界だった

 見えるものすべてが白黒で聞こえる雑音はとめどなく情報に変わる
 いやなことは簡単に記憶の中から消えていった

 セーブデータを消せば消えてしまうようにもろいもろい僕の記憶は全く正確性を持っていない
 僕はその空虚な世界で唯一無二の宝物を見つけた

 それは僕の初めてのお友達だった
 赤や黄や水色やピンクやオレンジといった色とりどりの布でできた熊とも犬ともいえるお人形
 彼は不恰好ではあったがカタカタと鈍い音をたてながら僕のほうに向ってくる
 電子音まじりの声を聞かせてくれる
 初めてのお友達だった

 僕は毎日彼と遊んだ
 僕がその場でくるりと回ると彼も合わせて回る
 走れば不恰好に後を追ってくる
 話しかければ答えてくれた

 大好きだった

 飽きもせず彼と僕はずっと一緒にいた
 季節が一巡りしてまためぐり始める
 色のない世界だけど彼だけは色を持っていた


 ある日のこと
 彼の右腕が取れてしまった
 ぬいぐるみの彼だ
 針と糸があれば直せる
 そう思ったけれど僕は針と糸の使い方をいらない
 接着剤でくっつければいい
 でも、そうしたら彼の腕は二度と持ち上がらない

 僕には、助けてくれる友達がいなかったんだ

 次は左腕が落ちた
 彼は動かなくなってしまった
 次は右足、その次は頭、その次は左足

 最後には彼の心臓の音が聞こえる胴体だけが残った
 落ちた手足はいつしか見えなくなっていた

 僕が眠りについた後
 彼の胴体は砂になってしまった

 何度も直そうとした
 でも、どうしても直らなかった

 だから僕は時間に身を任せ彼を直すことを諦めてしまったんだ

 彼は砂になって僕の記憶の中から消えてしまった

 僕はまた、独りぼっちになった
 彼という記憶をなくし空虚な色のない世界へ戻り、開いた穴を埋めようとたださまよい続ける

 すぐに記憶が消えてしまう僕に、どうせ友達なんてできはしないんだ…


 
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