「何やってんだよこんなとこで」
…彼の言うことは最もである。あたしはだんだん薄暗くなっていく中、公園に1人、ブランコに揺られていた。ブン太は部活帰りだろう。右手には、大きな紙袋に詰まった大量のプレゼント。あの子のラッピングが一番目立っていて、溜め息が出た。
「…大量だね」
今日は幼馴染みの誕生日。そしてあたしの誕生日でもある。
「…まぁな」
お互いにプレゼント交換をしなくなったのは中1から。あたしのあげようとしている物が、ブン太には簡単に手に入ってしまう事に気付くのに時間はかからなかった。
「…あたしは、プレゼント持ってないよ」
嘘。ほんとは持ってる。今年だけ。今年だけは久しぶりにあげてみようかと思った。けど。
「…あっそ」
ブン太はそう言いながらあたしの隣のブランコに乗った。しばらく、2人で黙ってブランコを漕いでいた。
そういえば、プレゼントをあげなくなったのも同じ様な理由からだっけ。…あたしは何も変わらないな。変わっていくのはいつも、ブン太。
あたしは昨日あるクラスメイトに、ブン太の誕プレについて話したのだ。こういうのを欲しがってるって聞いたんだけど、こっちあげる方がいいかな。ブン太、赤好きだから。…今考えると馬鹿としかいいようがない。
今日の朝学校に来てみると、あらびっくり。そのクラスメイトが目の前であたしが昨日ブン太にあげるって言ってたものと全く同じものを渡しているではありませんか。
しかも、今度はそれを見て硬直してるあたしに満面の笑みでプレゼントを渡して来たのだ。その神経には恐れ入る。…でもそこで、何も言わなかったあたしの負けだ。ほんと、あたしは呆れるくらい何も成長してない。
「ていうかお前公園で1人何してたの」
沈黙を破ったのはブン太だった。
「見て分かるでしょ。ブランコ乗ってた」
「そんぐらい分かるっての。何で」
「別にいいじゃん。…ちょっと女のシビアな世界について思いを巡らせようと思って」
「は?馬鹿だろぃ」
「うるさい」
「つーかさ、俺らいつからプレゼント交換しなくなったんだろうな」
「…中1ぐらいじゃない?」
ブン太にとっては記憶にも残ってないことなんだ。ずき、と何処かが痛んだ。
「…女ってマジ分かんねぇ」
「いきなり何」
「嫌いなら俺と喋らなきゃいいだろぃ」
誰が、誰を?ひょっとして、あたしがブン太を?ブン太は、あたしがプレゼントを渡さなくなったのをブン太が嫌いになったからだと思ったんだろうか。…分からない。
「…嫌い、じゃないけど」
敢えて誰がとは言わない。すると、ブン太は唐突にブランコから飛び降りた。あたしの前に来る。
「今年は買った。これ、誕プレ」
あたしもブランコの動きを止めた。無造作に差し出されたそれを受け取る。中身は、綺麗な飾りがついた髪ゴム。…貰えるとは思ってなかった。
「…あ、ありがと。あの、ブン太、」
あたしは慌てて鞄からプレゼントを取り出した。
「さっきないって言ったけど、嘘で、これ。多分、同じ物あげた子いると思うけど」
多分っていうか、確実にね。ブン太は驚いたみたいだったけど、受け取ってくれた。…こんな可愛くない渡し方をした子はあたしだけだろうけど。
「…サンキュ」
空には月はなく、星だけ。辺りは真っ暗になっていた。それだけ言って背を向けて歩き始めたブン太を慌てて追う。隣には並ばない。
幼馴染みって大きくなったら変わっていくんだ。互いの事は分かっていると思ってたのに、どんどん相手が変わっていってずれて行く。
それを止める術を知らない。でも、今はたった2人で周りには誰もいない。鞄から覗くブン太からのプレゼントを見て思う。…言わなきゃ。もう長いこと、言ってない。
街灯が切れている所に差し掛かって、丁度暗かった。月なんて眩しすぎる。だから、星で十分。
「ぶ、ブン太!」
背中に向かって言った。ぴたりと止まるブン太。
「何だよ」
くるりと振り返られる。表情は分からない。けど、あたしが分からないんだからブン太にもあたしの表情は分からないだろうと、自分に言い聞かせた。
「プレゼント、ありがとう。あの、ほんとに気に入ったから、つけるね」
「…おぅ」
大きく息を吸った。この一言で、何か変わるなら。
「長い間言えなくてごめん。
誕生日、おめでとう」
「…お前こそ」
ブン太があたしに近寄る。…やっぱり、言葉で言わないと伝わらない事は沢山あるよ。
そんなあたし達を、星だけが見ていた。