『明日への歌』

□二ノ巻『日常』
1ページ/3ページ


青い空。
雲ひとつない大空。
生い茂る木々の中に小さな花畑。

その花々に埋もれるように小さな少女がいた。少女は慣れた手つきで花を集める。
その表情は笑顔で溢れていた。その光景はとても美しく、心を落ち着かせた。



「スミレ。」
その少女の名はスミレと言うようだ。

名前を呼ばれたスミレは声の主の方へと顔を向ける。

「花、摘めた?」
声の主は少女と同い年くらいの少年。
黒い髪を陽が明るく照らしている。



『うん。サスケは?もう修行終わった?』
「うん!」

サスケと呼ばれた少年は少女へ言葉を返す。二人が今居るのはうちは一族の近くに存在する森である。イタチを含めた三人はよくこの森で修行を行っている。と言っても、イタチは何故かここ最近サスケにばかり修行をつけるようになり、逆にスミレにはあまり修行をつけないようになっていた。
―いや、正しく言うとサスケへの修行の頻度は変わらないが、スミレの修行の回数だけが明らかに減っているのだ。その為スミレは一人で修行するか、森の中の、この小さな花畑で花を摘むことが多くなっていた。

『いいなぁ〜。あたしも修行見てもらいたい!』
不服そうにスミレは頬を膨らます。
近頃は、イタチに修行を申し込んでも上手くはぐらかされている為、スミレは不満が高まっているようである。



別に一人で出来ないワケではないのだが、イタチの教え方はとても分かりやすい。その為、イタチに修行をつけてもらうのとそうでないのとでは修行の出来が全然違うのだ。実際、アカデミーでのスミレとサスケの成績にここ最近差が開いてきたのは、間違いなくイタチに修行をみてもらえていないからに違いない。

「そういえば、最近3人での修行の回数が減ってるね。兄さん、何でスミレの修行みてくれなくなっちゃったんだろう?」

『手裏剣術までは教えてくれたんだけどなぁ…。』
スミレは花束に口元をうずめて、小さく溜め息をついた。

そこへタイミングが悪いのか良いのか、2人よりお兄ちゃんのイタチが現れた。
「2人とも、もう帰るぞ。」

調度良いと思い、スミレは本人に直接理由を聞く為、イタチへと駆け寄る。


『イタチ兄ぃ!何でわたしにだけ修行就けてくれないの!?サスケばっかりずるいよ。』―と、もう何度も言っている質問をしてみた。


それを聞いてイタチは一瞬沈黙したが、すぐに言葉を紡いだ。
「スミレは女の子だから、もう少し大きくなってからだ。」―と、いつもの台詞で返す。これだ。何度質問してもイタチは決まってこのセリフを返してくる。
一体このやり取りを何度繰り返しただろうか。

『むぅ〜…』
スミレの不満はますます高まるばかりである。
“何かある”。イタチは「女の子だから…」を理由にしているが、本当の理由はもっと違うことに違いない。根拠なんて無い、只の勘に過ぎない。しかし、スミレは自分の勘に結構な自信をもっていた。スミレの勘は結構当たるのである。いわゆる、“勘が鋭い”というヤツだ。

スミレはイタチの真意を探るかのようにじぃっとイタチを見る。

そんなスミレが大事そうに抱えている花束を見て、イタチは何の花なのか分かったのだろう、
「その花、
帰りに一緒に届けに行こうな。」
そう言ってイタチは頭を優しく撫でながら微笑んでくれる。

そんな優しいイタチがスミレは大好きだった。
イタチの真意を探るのも忘れ、次第にむくれていたスミレ表情は自然と緩んでいた。



3人はイタチを真ん中にして手を繋いで歩き始める。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ