ブリキの歴史覚帳

□第十話 石ころのココロ
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ー…ガサササッ……




「おお…こりゃあ宝の山だな…!!」

「本当だ…今はもう残ってない掛け軸に茶器…売れば一生遊んで暮らせるぞ!!」



「だが、本当に大丈夫なんだろうな…?」




「ああ、好きなだけ。こんなもの全て…無くなればいい。」


「……?」





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ー…バンッ!!!!!!!!!!




「虎目がいない、そして働かない!!!!」








「か…栞奈さん…!?」

「まあまあ落ち着いてこれでも飲みい〜。」




突如部屋に入ってきた栞奈はそう言うと、勢いそのままにどかっと椅子に腰を下ろした。

明らかにイライラした栞奈に蛍が差し出したコーヒーを一口飲むと、少し落ち着きを取り戻したようでガンウェアを外しハアと溜め息をついた。




「虎目さんって確か栞奈さんの班のアンドロイドの方でしたっけ?働かないとは…?」


「そう!!あの一日の大半をロボットのくせに睡眠に費やして、任務があれば二言目には面倒くさい、すぐにフラっといなくなるくせに顔だけは無駄にいいのが滅法ムカつくって噂の虎目よ!!!!!!」


「…そんな噂初めて聞きましたけど、怒っている理由は十分すぎるくらい分かりました…。」



「もー…ちょっと蛍、あんたアンドロイドキーパーの先輩でしょ!?後輩にびしっと言ってやってよ〜〜!!」

「ええ〜…そんな無茶言わんでよ〜!旧型のジジイの言うことなんて最近の子は聞かんって〜。」



「そう言えば…虎目さんって新型のアンドロイドなんでしたっけ。」



蛍の言葉に、こまは昔栞奈から言われた事を思い出した。

アンドロイドには新型と旧型があり、旧型のアンドロイドは人間に忠実だが、新型は性能は高いが淡白な性格のものが多いと言われていた。



(蛍さん達アンドロイドの性格を、ただの"性能"ってもので片付けちゃうのも嫌だけど…そういうものなのかな。)



「まーね、でも新型とは名ばかりで結局旧型の蛍に戦闘能力じゃ手も足も出ないんだから。意味ないでしょ。」



「えっ!?蛍さんってそんなに強いんですか?」

「えっ、こまちゃん蛍の強さ知らなかったの!?普段はこんなニコニコしてるけどね〜対等に渡り合えるのは人とアンドロイド含めても八雲くんくらいじゃないの?」



「ええっ!!??」



驚きの事実にこまが思わず声を上げて蛍を見ると、蛍は少し困ったように笑いながら言った。



「はは…いやそれは新型の性能に頼って鍛錬不足なだけやない?勝っとるのはたまたまって。というか持ち上げて虎目なんとかしてもらおうって魂胆見え見えやろ!!」

「えー?でも戦闘マシーンなのは本当じゃない〜あ、さてはこまちゃんの前では猫かぶってたな〜。」


「……。」


(どうりで山賊が随分弱く感じたわけだ…それによく考えたら初めの頃信虎さんが差し向けた透破が束になっても蛍さんに全く歯が立たなかったっけ…。)



「こまちゃん…?ま…まさか引いた!?僕のこと嫌いになった…!??」

「えっ!?いえいえそんなことは…!!ただすごいなあって感心してただけですよ!!」



「まったく…蛍はこまちゃんが好きだねえ…でも元々のパートナーは八雲くんなのに、そっちにはあんまり執着しないね。」


「……。」



栞奈の言葉に蛍は一瞬言葉を詰まらせた。

だがそんな蛍を不思議そうに見つめるこまと目が合うと、すぐにニコッといつも通りの笑顔を浮かべおどけたように言った。



「…そんなん当たり前やん〜!おじさんの御幸よりも可愛いこまちゃんがいいに決まっとるやん!一応アンドロイドも性別があるけんさ、雲母とか僕も異性のパートナーに惹かれるのは当然やないかな〜。」


「その理屈でいくならどうして虎目は異性の私に忠実にならないのよ。」



「・・・そりゃアンドロイドにも好みってもんが…ああ!それか女だって気付いとらんのかも…!!」

「廃棄処分にされたくなかったら口を慎もうか蛍。」







「は…ははは…。」



そう言ってコーヒー片手にふざける二人を見ながら笑うと、こまは片付ける途中だった書類を抱えた。

だがそれを元の場所に仕舞おうと書庫の取っ手に手をかけた瞬間、こまは何か違和感に気がつき思わず驚きに声を上げた。



ー…ガコッ…


「……へ…?わああああああ!!!!!」








「なっ…!!こまちゃん!?」

「どうしたの!?」



「ぐー………ぐー…」



「「へ・・・?」」



驚いてぶちまけた書類の舞い散る中、目を丸くした三人の目の前にいたのはすやすやと気持ちよさそうに眠る一人の大柄な男性だった。



「こ…この人は…」

「ははは…虎目。こんなとこに隠れとったとは…よく入ったね。」


「………とおおおおらあああああめえええええ!!!!!!!!なんで人の班の書庫であんたが昼寝してるの起きろバカ虎ーーー!!!!!!!!!!」




「………ん?あ、見つかった。」






虎目はそう言ってふわあと眠たそうに目をこすると、怒る栞奈を横目に悪びれることもなく立ち上がった。

真っ白な髪と透き通るような瞳の端正な顔は栞奈が顔だけはいいと言うのも頷けるもので、こまも思わず目を奪われていた。




「あ、どーも…お邪魔しました…寝心地良かったです。」

「そりゃよかったわ。それより虎目、うしろうしろ。」


「とおおお…らああああ…めええええ・・・・・!!!!」




「………おお、鬼がいる。では、さようなら。書類、拾えなくてごめんなさい。逃げます。」

「誰が鬼だ待て虎目ーーーーー!!!!!!」


「あ、栞奈さん待ってガンウェア忘れとるって!!」


ー……バタバタバタ!!!!





「は…ははは…。」



虎目が一目散に逃げ出しその後を二人が追って出て行くと、嵐が去ったような部屋には散乱した書類とこまが残されていた。



「よいしょっと…あれが虎目さんか…確かに顔はすごく綺麗だけど大変そうだな…。」


(でも、そこまで悪い人には思えなかったけど……ん?)








こまが散乱していた書類をかき集めていると、書類に紛れて見慣れない一冊の手帳が落ちていた。

栞奈か虎目のものだったら早く届けないといけないと思ったこまは、悪いなと思いながらも中身をそっと覗いた。



「……ん…?4月、キーパー34名ナビゲーター50名…7月、キーパー32名…ナビゲーター50名…?なにこれ…。」



開いた手帳の初めのページに書かれていたのはキーパーの人数を毎日書き記したもののようで、詳細に人数が記載されていた。

こまがキーパーの仕事を始めてから2人減ったらしい人数の記載に、こまは不思議そうに首を傾げた。




(キーパーって…私が入った時から32人だったよね…?私の勘違いかな…でもこんなもの何で…)




不思議そうにそのページを更に捲ると、そこにはびっしりと描かれた数字と文字が羅列されていた。

そのページに目を凝らすとそれは詳細に描かれた過去の年表のようで、殴り書きされたように赤ペンで何箇所も訂正がなされていた。



その異様な手帳のページの文字は所々掠れたり滲んでおり、それがどこか悲痛な叫びを訴えているようでこまは思わずその手帳を閉じた。




(なんなんだろう…これ…あの三人の誰かのものだよね…?それとなく聞いてみよう…。)




こまは妙な胸騒ぎを感じながらもその手帳を他人に委ねる気にはなれず、

大切そうにそれをポケットにしまったのだった。



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