ブリキの歴史覚帳
□第一話 戦国時代の新入社員
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ー…バタバタバタ…
「こまちゃーん!!モデルさんのメイク終わった〜?」
「はい!!撮影いけます!!」
「お、今回もいいじゃない〜!!やっぱこまちゃんのメイクは撮影に映えるわねえ…アイシャドウは今季の新色かしら?」
「はい!!今季はコレクションでも青みの強いカラーが人気でしたし…艶のある肌感に相性もいいかと思います。」
「うん、ラメ感があるからキラキラしてこれからの夏の誌面にぴったりだわ、さすがね。」
「ありがとうございます…!!」
ずっしりと重いメイクボックスには宝石みたいな私の集めた化粧品たち、キラキラと輝くモデルさんにそれを照らすフラッシュ。
私の日常は、いつだってそんなきらびやかで華やかな世界だった。
「来季の撮影ももうこまちゃんで予約させてもらっちゃおうかしら、そうだこまちゃん、もういっそうちの専属にならない〜?」
「あ…ありがたいお話です…!!でも、実は私…今季いっぱいでこのお仕事…辞めることになったんです…。」
「「え!?」」
私の突然の告白に、その場にいたカメラマンもモデル達も皆が寝耳に水というように一様に驚いていた。
それもそうだ、この世界で軌道に乗って2年。これからという時に、私は人生最大の決断をしたのだから。
「ずっとずっと憧れていたもう一つの夢、それを叶えたいと思っています!!」
寿こま、メイクアップアーティストを志し、今年で24歳。
この時の私は、あっさりと一つ目の夢を叶えた自分に自信が無かったといえば嘘になる。
きっと次も何とかなるとたかをくくって、私は華やかな世界に立ってる自分の姿ばかり想像していた。
だが世界は、私に二度目の奇跡を起すほど甘いモノではなかったのだった……
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ー…バク…バク…
「やばい、緊張して吐きそう…。」
「こま結果見ないの?私代わりに見てあげよっか?」
「いや、見る!!…見る…えっと…1246……1247…1…2…4………」
「「・・・・え?」」
「1248……無い!!???」
「あ…あららー……」
手元に握りしめた数字は眼前の電光掲示板には表示されていなかった。
涙がでるというよりも、先に全てが燃え尽きたような虚脱感に襲われたこまは、ふらふらとその場に座りこんだ。
「こま…だって国家公務員の倍率400倍で受かるほうが奇跡なんだって…。」
「…う…嘘でしょ…。」
「まああんな素敵な仕事、憧れちゃうよね…本当……。」
時は2168年、日本。
"タイムレーン"と呼ばれるいわゆる時間旅行装置を、一人の日本人科学者が発明に成功した。
その発明は様々な国々や神の存在の祖を暴かれる事を恐れた宗教家と幾多の抗争を繰り広げる発端となると同時に、日本経済に多大な利益をもたらした。
日本政府はこれを大いに利用し、過去を隠蔽したい国々には過去を切り売りし、その利権を販売した。
民間人には過去の好きな時代を見学させ、莫大な利益を生み出した。
資源の乏しかった日本は過去の話。
今やこの国は"歴史"という財産を糧に、世界のトップに躍り出ようとしていたのだった。
…そして今、ここで発表が行われたのは、今の日本で最も人気のある仕事、タイムレーンの案内役、"タイムナビゲーター"の国家試験の合格発表。
ナビゲーターには高い才能を併せ持つ才色兼備の女性だけが選ばれるため、女性の最も憧れる職業でもあった。
「私のメイクで好感度はバッチリだったはずなのに…そりゃモデルじゃないから顔面偏差値は若干低かったかもしれないけど…
私には裏方がやっぱりお似合いってこと…?美波さんと一緒に働くのが私の夢だったのにいい!!」
「ナビゲーターの美波さん?確かに綺麗だよねえ…でも顔とかそういう訳じゃないと思うけどなぁ…こま十分可愛いしさ。」
「うっ……メイクアップアーティストの華やかな世界を辞めてまでナビゲーターの再就職にかけてたのに…どうしよう!!?明日からニートだうわああああん!!!!」
「ほら、もっかいメイクさんやってみようよ?きっとこまならすぐ雇ってもらえるって…って………ん?」
友人の励ましの言葉に耳もかさず落ち込むこまの隣で、友人は何かに気付いたようでわっと驚きの声を上げた。
「ちょっ…ちょっとこま!!番号見せて!!1248番よね!?」
「…うん…そうだけど…?」
「番号こっち…こっちに載ってるよ!!」
「………へ?」
友人が指差した先には、確かにこまの番号、1248番がただひとつ記載されていた。
だがその下の文言に、こまは驚きに再び声を上げた。
「上記の者…タイムキーパーの合格者とする…?キ…キーパー!?何で私が!!!!!!!!?」
「何でナビゲーター受けたこまがキーパーに受かってるの…?」
不可解な出来事に、二人は驚きと困惑の表情で顔を見合わせた。
タイムキーパーとはナビゲーターとともに仕事に当たるものの、その仕事はタイムレーン内の調査、治安維持、ナビゲーターのボディーガード。
ナビゲーターをスチュワーデスやアイドル要素のある仕事とすると、キーパーは警察や軍隊に近い要素を持った仕事で、世間の認識は、お姫様と兵士というほどの違いがあった。
「確かに同時受験になってて、才能が有るものはキーパーに選出される可能性もって説明は受けたけど……私にそんな才能あるわけない…」
「本当に何か心当たりないの?」
「な……ない!!あると思う!!?」
困惑の表情で受験番号を握りしめたこまは、何かを決したような顔ですくっと立ち上がった。
「絶対何かの間違いだと思う。私、キーパーの受付会場に行って聞いてくる。」
「えっ‥大丈夫!?」
「大丈夫!!だって私がキーパーなわけない!!
私はナビゲーターのあのかっわいい制服が着たいんであって……あんなカラスみたいな制服が着たいんじゃないんだから!!!」
(……そこなんだ。)
「今日は着いて来てくれてありがとう!!私、行ってくるね!!」
「い…いってらっしゃ〜い…」
かくしてこまは、一生に一度しか受けることを許されない超難関試験の合格者会場に足を踏み入れた。
だがそこに待っていたのはキラキラした職場とこまが期待した可愛い制服などではなく、
仏頂面のとびきり人相の悪い男と、
あの、カラスのような真っ黒の制服なのであった…。
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