リバースヒーロー

□Re:6 掌の雪
1ページ/6ページ









「あんな犯罪者に教わることなんて、俺達にあるわけないよな。」







投げかけられた残酷で無慈悲な言葉。

だがそれは容易に予想できた言葉でもあった。






ただ、今はそれを乗り越える為にここに来た。







これから先に、

大切な人と歩んでいくために…。












.....................





ー…ガチャ…




「ふおおおおただいま〜…だいぶ外も寒くなってきたな〜!!」


『………。』

「佐奈?」



『えっ!?あっ、はい何でしょう?』




孝之助の言葉にハッと弾かれたように返事をした佐奈に、孝之助は肩をすくめて笑った。




「ヒナの事が心配か?」

『………。』




全て見透かされたような笑顔の孝之助に佐奈は小さく頷いた。


ヒナが警察署に手伝いに行き始めたのはちょうど今日からで、

物分りの良い彼女ぶって笑顔で送り出したものの、ヒナのいないガランとした部屋を見る度佐奈は深い溜息ばかりついていた。





「何も一生ここにいない訳じゃねえんだ、それにヒナの代わり雇ったりなんかしねえから心配すんな。」


『…はいっ…!!』

「コウノスケ!!!!」



「『!?』」











二人がそう言って笑い合った瞬間、二人の間の静かな空気を割って入るように勢い良く一人の男が事務所に顔を出した。

その顔に見覚えのあった孝之助は、まさかといった風に驚きながら男の顔をまじまじと見た。





「ノアさん…!!どうしてここに…!!?」

『ノ…ノアさんって…もしかして…』




「君のこともリョウから聞いてるよ、佐奈!!初めまして僕はノア・ミラー、宜しくね!!」


『は…はい…‼』





快活とした笑顔で握手を求めるノアに、佐奈はやや押され気味にその手を取った。

そうして突然訪れたこの珍客を前に、佐奈はおずおずと申し訳なさそうにヒナの不在を告げたのだった…。








ー…カチャ…




「警視庁に指導に行ってる!?あのリョウがかい?」

「はい…なんともタイミング悪いんですが…。」



出されたコーヒーを口に運びながらノアは驚いたような顔を浮かべると、昔を懐かしむ様に目を細めた。




「正直日本からリョウを連れ戻した時の様子を見て不安もあったんだが…そんな事をするようにまでなったのか。

あれからいい仲間に出会えたんだなぁ…リョウ…。」


「…そう、思って貰えてるといいんですけどね…。」



「思っているに決まっているさ!!それに…こんな可愛いフィアンセまでいるんだからね☆」

『ご…ごほおっ…!!!!!!!!!!』












「お…おいおい…佐奈大丈夫か…?」

『だ…だいじょうぶです…』





突然のノアの言葉に佐奈が顔を真っ赤にして慌てふためいていると、ノアは不思議そうに首をかしげた。





「おや、違ったのかい?てっきり僕はリョウとの将来を考えているものだとばかり…」


『あ…いや、ヒナさんからそんなこと言われたことがないのでびっくりしてしまって…!!もちろん私としては…そうしたいんですけどね。』




「そうか!!こんなに可愛い彼女なんだ、リョウもそう思ってるに決まっているさ!!

僕は嬉しいよ…あいつ顔は綺麗なのに身なりも愛想もあれだろう?金目当ての年増ババアに連れて行かれるか独り身のままがオチじゃないかと心配していたんだ!!」




『と…年増ババアってノアさん…。』

「アハハハ!違うかい?」





アメリカ人だということを疑いたくなるような流暢な日本語で喋るノアに、佐奈はアハハと笑みを浮かべた。

ヒナがアメリカにいた頃世話になったというノア、彼が明るくいい人そうであった事に、佐奈はどこかホッとしていた。





『それにしてもノアさんは日本語が本当にお上手なんですね。』


「ああ、アメリカにいる時にリョウの世話役みたいになってから勉強したよ。

僕の祖母は日本人で日系アメリカ人でもあるから、もともと少しは喋れたってのもあるけどね。」



『そうなんですか…。』


「なんたってリョウが"あんな"だろう?あいつは言葉の壁で皆と喋れず寂しいんだろうと思って、何とか言葉を引き出そうと思って彼の百倍は日本語で喋りかけていたんだ、

でも結局あいつはただの極度の無口で英語も喋れるんだって知ったのはだいぶ後のこと、僕の取り越し苦労だったってわけさ!!」



『あはは…!!何だか分かる気がします…私も初めは全く喋ってもらえませんでした!!』


「そうだろう、そうだろう?」





そう言ってヒナの昔話を交えながら朗らかな笑顔を見せるノアに、佐奈も思わず頬をゆるめた。

さっきまでの憂鬱な気分を吹き飛ばすノアの勢いに、佐奈は内心感謝していた。





(ヒナさんはあまりアメリカにいた頃のことを話したがらないけど…ノアさんの話だけはたまに聞くの…分かる気がするなあ…。)





佐奈がそう思い嬉しそうにノアのことを見つめていると、ノアは昔を思い出しふと我に返ったようで、顔を俯けた。





「…でも、研究所では私も体裁があってあまり深入りはしてやれなかった…どちらかというと苦しめたことの方が多かった気がするよ。」



『ノアさん……。』

「あーっいやいや今のは無しだ無し!!今回は暗い話をしにきたわけじゃないんだからな!!」



『‥?』



そう言って慌てたように顔を上げたノアは、アハハと二人に明るく笑ってみせた。




「ところでノアさんは…今回はヒナに会いに日本に?」

「え?ああいやいや、それも勿論あるんだけどね…本当の理由は別なんだ。」



「『?』」





「まあ今はそれは置いておこう、今はこの"るるぶ東京版"に載っている月島もんじゃと東京ばな奈でこのうるさい腹を黙らせるのが先決だろう!!」









そう言ってキラキラした瞳で二人を見つめるノアに、孝之助はフッと笑って佐奈に言った。





「なら佐奈、ノアさん店まで案内してやってくれ!!」

『いいんですか?仕事は…』


「大丈夫大丈夫!!ノアさん折角日本まで来たんだ、うまい店教えてやりてえだろ?」



「おお助かるよ佐奈!!では彼女を少しの間お借りするよ、コウノスケ!!また後でな!!」

『じゃ…じゃあ行って来ます〜〜〜!!!!』




「はいよ〜行ってらっしゃい〜」




ー…バタバタ…





「あれ?大丈夫………だよね?」













元気よく飛び出していった二人の後ろ姿を見送りながら

孝之助は背後に控える大量の書類に、若干の後悔を覚えたのだった…。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ