リバースヒーロー

□Re:5 魚と最後の夏休み
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ー…ビリビリビリビリイイイ!!!!





「はい、これ捨てておきますねー。」











『ぎ…ぎゃああああ九条さん何してるんですか!!』






小気味いい音とともに散り散りに破かれたチケットの無残な姿に、佐奈は思わず口を開け呆気にとられた。

それはつい先程、和泉が商店街で"わざわざ"もらってきたという水族館のチケットだった。





『せっかく和泉さんが貰って来てくれた水族館の券を……!!』


「甘い、こんなもので私をひるませようったってそうはいきませんよ和泉。」

『ひ…ひるませるって…?』




「だいたい佐奈さん、報告書の山を前に…ど〜の〜口〜が〜水族館などとおおお〜〜〜・・・?」


『…ひっ!!』





有無を言わさぬ威圧感を発する九条に佐奈はすごすごと黙って引き下がるしかなかった。

なぜ九条が水族館を嫌悪するのか知らない佐奈は、首をかしげながら報告書の山に向き直った。





「…佐奈、どしたの。」

『あ…いや九条さんが水族館の招待券破いちゃって…』



「水族館…?ああ…それは…」






ー…バッターン!!!!


「たっだいま〜〜〜!!だああまじ暑いい〜今年の夏の暑さは殺人的だな!!」


『和泉さん!』

「いい〜ずう〜みいいいいい…!!!!」




「おっ!腹黒男、土産にまたいいもん貰ってきてやったぞ〜!!そ〜ら水族館招待券50枚!!!!」

『あっ私貰いたいです貰いたいです!!せっかくなんでみんなで今度の休み行きましょうよ…』



「着火。」




「ぎゃあああああっち!!佐奈水!!水水!!」

『何九条さん放火してるんですかああ危ない!!』




「・・・・うるさい。」











連日のうだるような暑さの中ぎゃーぎゃーと暑苦しく騒ぐ三人を横目に、ヒナはクーラーと扇風機の前でハアと溜め息をついた。

そんな事務所の皆に割って入ったのは、小さな紙を握り締め参ったような顔をした孝之助だった。





「はーいみんなストップ集合〜〜〜、大変残念なお知らせがあります〜。」

「『へ?』」




「明日一日、わが事務所は電気系統及びクーラーが使えません。」

「『え…?えええええええええええええええええええ!?』」




一同の悲鳴にも似たブーイングに孝之助は耳を抑えると、ガシガシと頭をかきながら乾いた笑いを返した。



「嫌だ!!!!クーラー無いのは無理だ!!」

『わっ…私も無理かと思います!!』


「無理ってお前しょうがねぇだろ、ビルの電気工事で止まるっつってんだから止まるものは止まるのー。」



「根本的に電気がないと仕事が出来ません。」

「孝之助さん、今月の売上が厳しいので稼働させたい気持ちは分かりますが、温度が1℃上がると作業効率が2%下がるというデータもあります。ですから通常26℃ほどの室内が31℃近くになると言うことはですね…」

「だあああああ分かった!!分かったよ!!さっきまで喧嘩してたくせにこんな時だけ妙に結託しやがって…」




孝之助は諦めたようにそう言うと、突如背後からスイカのビーチボールを取り出し、ニッと笑って言った。




「夏休み、何だかんだで取らせてやってなかったから…いい機会だ!!これからはあんまり行けなくなるかもだしみんなで行くか、海でバーベキュー!!」


「『行くっっ!!!!!!』」












「断ります。」

「俺も別に‥暑いし。」



「九条っち〜〜ヒナ〜〜お前らノリ悪いよ〜〜!!!!」

「海で食べるののどこが楽しいんですか。」




喜び盛り上がる佐奈と和泉に対して全く乗り気じゃない二人の様子に、

孝之助はビーチボールをはじきながら少しいじけたように言った。




「…みんなで遊び行かないなら夏休み却下、うちわ持参で通常業務。」


「『!!!!』」






ー…がしっ…





「……行くよなあ?棺桶と海、好きな方選べ。」

『ほ…ほら、みんなで行きましょう?ね!!!!????』



「「・・・・。」」

「わ…私は…」


『ねっ?』「なっ!?」




「…………。」











地獄の灼熱勤務からどうしても逃れたい佐奈と和泉の威圧感に押された二人は、なかば強引に首を縦に振らせられた。



こうして予想外なきっかけから、事務所メンバーは"魚"の大嫌いな九条を乗せて、

海へとバーベキューへ向かう事となったのであった…。








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