リバースヒーロー
□31.リバースヒーロー
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ー…ザーザザザ…
「今回のインターネットウイルスの拡散により、一時ネットワーク機器の使用を差し止めた件について警察は、事実が確認出来次第説明を行うと発表しました。」
『………。』
あれから日常の生活へと放り出されていた佐奈は、ひとり事務所の掃除をしながら延々と繰り返されるワイドショーをぼんやりと眺めていた。
たった数日前に起こったあの非日常な出来事と騒動がテレビの中で語られるのを、佐奈はどこか他人事のように見ていた。
「それにしても前代未聞の騒動ではありますが、未だ警察からの詳細な情報は語られておりませんからね〜。
あの日は正直困りましたよ、訳も分からないままパソコンも携帯も使えなくなって…」
「大丈夫と言われても気になってしまいますよね…。
どうやらかなりその世界では有名なハッカーが全世界に向けてウイルスをばらまいたという説も囁かれていますし、一刻も早い事実説明が求められます。」
『ー………!!』
ー…ブツッ…!!!!
佐奈は勢いに任せてテレビの電源を落とすと、悔しそうにリモコンを握りしめた。
世の中にはまだあの日の出来事は正確に伝わっておらず、犯人がまるでヒナであるかのような誤った報道も見受けられた。
だがそれを誰に反論していいかも分からず、佐奈はじっとその言葉を飲み込み続けていた。
恐らくここの事務所との関わりが嗅ぎつけられるのも時間の問題だろう、
その時ここの皆の過去がまたこうやって湾曲されて晒されるのかもしれないと思うと、佐奈の胸は張り裂けそうだった。
ヒナさんは……一体なんのために命を懸けたの…?
"あの日は正直困りましたよ、訳も分からないままパソコンも携帯も使えなくなって…"
あの日にそんなあなた達を助けるためにヒナさんはたったひとりで血を吐いて、痛みに耐えて死ぬ覚悟で世界を救って捕まったのに?
"ホント、困りましたよ。"
『っ………!!!!』
理不尽でやりきれない現実に佐奈は思わずその場にうずくまった。
やっぱりあの時私はヒナさんを力づくで止めて連れ去って、
人口の半分以下になった世界であなたと生きていたら良かったのかな。
あの後、瀬尾の屋敷から押収されたパソコンを佐奈は見ていた。
パソコンのほとんどは血で真っ赤になって、必死に流れ出る血を拭ってキーを押したのか、押したキーがどれか遠目にもに分かるほどくっきりとヒナの指の跡が血でついていた。
その一つ一つがまるで、
あの瞬間のヒナの苦しみをそのまま体現しているようだった。
今もずっと目を覚まさないヒナ、
今もうそんな事を言ったって仕方がないのだけれど、今もずっとあのパソコンを思い出すたびに後悔する。
そう、私は皆が身を切って守ってくれた日常にたった一人で戻ってしまったことを、死ぬ程後悔してるんだ。
でもそんな事言ったらきっと和泉さんが怒って、
九条さんがそれをたしなめるように言葉を返して、
孝之助さんがまあまあと言って二人を止めに入って、
ヒナさんが慌てる私を見て笑うんだ。
『………みんな……!!』
「…ワン!!」
『…えっ…!?』
佐奈が俯き涙をこらえていると、突然耳元に聞こえた声とともに生温かいものが耳に触れた。
それに佐奈が驚き顔を上げると、そこにはタマを連れた琴子が少し慌てた様子で立っていた。
『タ…タマ…琴子さん…どうしてここに…』
「虎ちゃんの組の人から事情聞いたのよ…虎ちゃんも事務所の皆も連れて行かれたって…」
『はは…そうなんです…みんな…いなくなっちゃいました…。』
「……佐奈。」
そう言って弱々しい作り笑顔を見せる佐奈に、琴子はズカズカと近づき佐奈の頬をペチンと軽く叩いた。
突然のことに佐奈が驚いたように琴子を見ると、琴子は当然のようにニッと笑って言った。
「あんたがまだいるじゃない、みんないなくなってないわ。」
『え……?』
「私だっている、タマだっている、それに、所長さんだっているじゃない。
所長さんね、私がお見舞いに行った時、皆が危ないから助けてって言った瞬間に脈拍が乱れたの。きっとあの人も…戦ってるんじゃないの?」
『……!!』
「黙ってこんなとこでションボリ後片付けしてるなんてらしくないじゃない。
取られたら取り返す、倍返しじゃないの?熱血佐奈ちゃんのモットーはさ。」
『………!!』
琴子の言葉に佐奈は何かを思い出したようにキュッと唇を噛み締め頷くと、
こぼれそうになっていた瞳の涙をゴシゴシとこすり、琴子に向かって笑顔を見せた。
(そうだ、私が動かなくちゃいけないんだ。
今は、いつも助けてくれていた皆はいない、私だけしか動けないんだから…!!)
佐奈の脳裏には今も目を覚まさない孝之助、ヒナ、和泉の姿、
そして、留置所へ連行されたままの九条や高虎達の事が浮かんでいた。
『ありがとうございます琴子さん、私…もっとちゃんと頑張ってみます!!』
「うん、私も皆のためにできる事探してみるわ。いい?一人だなんて思うんじゃないわよ?」
「ワンワンッ!!」
「ほら、タマもいるって言ってるわよ。」
『ふふっ…はいっ…!!』
佐奈と琴子はそう言って互いに笑いあうと、
先程とは打って変わって力強い目で、立ち上がったのだった。
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