リバースヒーロー

□27.「26.5」
1ページ/5ページ











「どん底も知らない真っ白なヒーローより、お前らにこそ救えるものがあるとは思わないかい?」













今も耳に残るあの言葉、もう今から何年も前のこと。









彼はそう言って絶望の淵にいた人間に













手を、差し伸べたのだ。





















-Episode 26.5-


....................











ー…バサッ






「お前に次に頼む案件は警察組織にサイバーテロを起こした朝比奈了21歳だ。」




「………朝比奈…了…。」




その極端に高い背に長髪という特徴的な容姿と、珍しい名前には見覚えがあった。

渡された書類に目を通すと、男は事の次第について語り始めた。






「某国で活動していたは世界的に有名なハッカーだったそうでな。どうもその国の機密軍事施設に手を貸していたようだ。」



「…それがどうして日本の警察に?」



「数年前に朝比奈が日本に戻ってからはその腕を買われて日本のサイバー犯罪解決に手を貸してもらっていたんだよ。

だがどうやらその組織とも切れていなかったようでな…このザマだ。」





「このザマとは…」



「そこの国のお偉いさんがこちらに圧力をかけてきているんだよ、朝比奈を今すぐ返せとな。

朝比奈自身も罪状については認めているもののそれ以上一言も喋らなくてな、埒が明かない。」





そう言うと、恰幅のいい胸に沢山の胸章をつけた男は、苦虫を噛んだような顔で吸っていた煙草を灰皿にこすりつけた。









「それと…こいつは危険因子だ、分かっているとは思うが逃すんじゃないぞ……孝之助。」






「………はい。」













孝之助はそう静かに返事を返すと、ペコリと頭を下げてその部屋を後にした。






「はあ…何度来ても嫌なもんだなあ…。」









孝之助が出て来た建物は警視庁本庁舎。

そして出て来た部屋は警視監室だった。





これはまだ孝之助がフリーで弁護士をしていた7年ほど前の話。

部屋を出た孝之助は一気に緊張の糸が解かれたようにハアと長いため息をつくと、すごすごとその建物から逃げるように退散したのだった。










..................








ー…バタン




「えーこの度朝比奈くんの事件を担当することになりました弁護士の南在孝之助です、よろしくね!!」


「………。」


「まあそう固くならなくてもいいから…なんでも話してやってね!!」




「………。」

「・・・。」










あれから孝之助は担当を言い渡された朝比奈了が収監されていた拘置所に出向いていた。

だがそこで出会った朝比奈了の話に聞いていた以上の反応の薄さに、孝之助は内心戸惑いながらも必死に話しかけ続けていた。






「えーと、朝比奈くんは今21歳だけど落ち着いてるね、俺は35になってもまだまだだよ〜。」


「………。」


「えっー…っと、今日なんか暑くないかい?10月だってのに参っちゃうよねえ〜!!あ、そういやアイドルのABC12解散したんだってよ、知ってた!?」


「………。」



「・・・・。」




(悪態をつくわけでも弁解するわけでもない…話しかけても丸無視。こりゃ取り付く島もねえなぁ…。)





事件の話の前に少しでも心を開いてもらおうと悪戦苦闘した孝之助だったが、メガネと長い髪で表情を伺い知ることの出来ないその青年はただひたすら黙って俯いていた。

だが孝之助が仕方なく事件の話を聞いてみようかとそう思った…その時だった。






「あの…」

「えっ?うん、なになに?」


「死刑で構いません。」




「えっ…?」





やっと朝比奈が口を開いたと喜んだ孝之助だったが、その内容は孝之助が思っていたよりも遥かに喜ばしくないものだった。

孝之助は朝比奈の心情を考慮しながら、慎重に言葉を選びながら事実を伝えた。





「サイバー犯罪で死人も出てないのに極刑はいくらなんでもあり得ないよ…?なんでそんな…」







「…死なせて下さい。」




「……!!」














朝比奈はそうポツリと呟くとまた黙り込んでしまった。

口を開けば死ぬとしか言わない朝比奈に、孝之助は一旦この場を終わらせることを決めた。



そうして目の前の透明なガラスに孝之助はバンと手を置くと、今日一番の笑顔でニッと笑って言った






「また来るからな!!悪いがお前を殺させたりしない、絶対生きたいって思わせてやるから覚悟してろ!!」



「………。」




「じゃあな朝比奈くん…いや、朝比奈くんってやっぱ長いな…あさひな…あさひ…さひな…ひな…」

「…?」





「そうだ、ヒナって呼ぼう!!呼びやすいしいいじゃん、いいかな?」



「……。」




「沈黙は黙認ってね♪それじゃあまたな、ヒナ!!!!」」











これが事件を起こしたばかりの21歳の朝比奈了と一介の弁護士だった孝之助の出会いであった。


それから孝之助は拘置所を出ると、ヒナがどうすれば話をしてくれるかを必死に考えながら海岸線の道を歩き始めたのだった。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ