リバースヒーロー

□25.夏空の思い出
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...................




ー…ブロロロロ





『わあ…海キレイですねぇ〜!!』













日差しもきつくなり抜けるような晴天に恵まれた今日、

佐奈は事務所のメンバー全員とともにレンタカーに乗っていた。





「佐奈、このお菓子食う?これ美味い!!」



「おい和泉、運転してやってる年長者にまず渡さねえか!!この免許失効者!!」

「えええー。」


『あはは!!孝之助さん私が食べさせてあげましょうか〜?』






初めての皆揃っての旅行に和気あいあいと楽しそうにする和泉や佐奈達をよそに、

九条はどこか浮かれきれていないような様子で言った。





「全く突然社員旅行だなんて言い出すからびっくりしましたよ…何でこんな時に。」


「"こんな時"だからだよ、塞ぎこんでたってしょうがねーだろうがよ。」















『…。』





東雲大臣からの依頼、バベルの存在、千咲の裏切り。

そんな煮詰まりそうな出来事が多かった事務所の面々を、孝之助は少しでもリフレッシュさせてやろうと皆を温泉旅行に連れ出したのだった。


そんな中、隣で景色ばかりを眺めていたヒナに、佐奈は持っていたお菓子を差し出した。





『ヒナさん、これ食べませんか…?美味しいですよ?』


「ああ、うん。ありがとう。」






『……。』









........................






ー…ガタッ…





「バベルの研究に関わってた…?」



「………はい。」





あの日、ヒナの思いもよらなかった告白に皆は一様に驚きの表情を浮かべた。

ヒナは未だ全てを話すことを戸惑っているようで、言葉を選びながら少しずつバベルの事について話し始めた。






「自分が昔いた軍事組織が作っていたプログラムがバベルという名前でした…。

初めはバベルは戦地などでも人体に有効に作用する薬をインターネット経由でダウンロード出来るようにする為のプログラムだったんです…。」




「薬をダウンロード…それが出来れば大規模なパンデミックにも有効ですね。」

「そりゃまたすげえ話だな…。」




「…パンデミックってなんだ?」

「後で辞書で調べなさい。」






「でも…あの組織はいつのまにかその"人を助ける技術"を…金欲しさに"人を殺す技術"へと作り変えてしまっていた…。

俺も…今回の依頼でアメリカの馴染みの研究者に連絡をとって初めて知った事でしたが…。」






..............







「どうしてバベルが日本にあるんですか…!?

それにバベルは投薬の為のプログラムだったはず…なのに何でこんな事に…答えて下さいノアさん……!!」





「悪かったなぁ…リョウ、俺もこの改変には反対したんだがそうしたらプロジェクトのチームから外されちまってな…お手上げだったんだ。

組織の上の連中はやっぱり最大の金儲けになる"人殺しの機械"が欲しいんだとさ。」




「……!!」




「だがまだあのプログラム自体は不安定だ、人体への影響も即効性が無いし頻繁に暴走を起こす。日本に渡したのはいわば大規模な"実験"なんだよ。」





「…そんな…。」






















『…さん…ヒナさん…?』


ー…バッ!!

「…!!」




思いつめたような顔でギュッと拳を握り締めたヒナの手を、佐奈は心配そうにそっと触れた。

ヒナは触れられた手にハッと我に返ったように佐奈を見ると、大丈夫と一言だけ返し、また言葉を続けた。







「…製作に…直接関わったわけではないですが、あのプログラムが他人のコンピューターに侵入できるのは恐らく俺がその技術を提供したせいです…。」



「…。」



「それと…俺のこの頭にある機械…この研究が進んだせいでパソコンから直接脳波に影響を及ぼすなんて技術が出来てしまったんだと思います…

全部俺のせいだと言われても返す言葉もありません…本当に…黙っていて申し訳ありませんでした……!!!!」




『ヒナ…さん…』

「ヒナ…。」





うなだれたように頭を下げたヒナは今にも泣きそうな悲しい顔で、佐奈はそんなヒナを前に胸が締め付けられた。

だがそんなヒナに孝之助はいつもと変わらぬ様子でニッと笑い、うなだれたヒナの肩に手を置いた。




「言いにくいこと…話してくれてありがとな、ヒナ。」


「孝之助さん…。」






「でもいいかヒナ、絶対に…これはお前のせいじゃないから。」





「……!!!!」














『そうですよ!!技術を悪用した人達と、それを使った佐橋大臣達が悪いんです!!ヒナさんが悪いんじゃないです…!!』



「そうだよ、ヒナの言う投薬プログラムだって出来る技術なんだろ?

それならそのお陰で助かる奴だって沢山出てくるだろうしよ、あんま気にすんなよ。」



「包丁での刺殺事件が起こっても誰も包丁屋を悪いなんて思いません、そうでしょう?」




「…!?」





皆が一様に嫌な顔せずに笑顔を見せると、ヒナはそれが余程予想外だったようで呆気にとられたようだった。

責任を感じているくせに怖くてたまらなくて動けなくなっていた自分を、佐奈達はいとも簡単に許し、受け入れてくれた。




ヒナは目からじわりと溢れるものを拭うと、深く頭を下げて皆に一言"ありがとう"と言葉を絞り出したのだった…。








...................







ー…パキッ




『美味しいですか?』

「うん。」





差し出したお菓子を食べて微笑むヒナに、佐奈もまた嬉しそうに笑った。

ずっと塞ぎこんでいた理由を皆に話したヒナは、最近は少しこうして笑顔を見せることも多くなっていた。





ー…ギュッ


「…佐奈?」





『温泉、楽しみですね!!』


「うん。」














この今にも折れてしまいそうな優しいひとを、佐奈はずっとずっとそばで支えようと心に決めていた。












皆に気付かれないように後ろの座席でヒナの手をギュッと握り締めながら、佐奈は一人吸い込まれそうな青空を眺めたのだった…。





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