リバースヒーロー

□24.置かれたハニーポット
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東雲大臣からの依頼を受けてはや一ヶ月、


相も変わらずバベルについての情報を収集しつついつも通りの毎日を送っていた南在事務所だったがただ一つ、とても大きな変化が起こっていた。










ー…バタバタバタバタ







「あのっ…佐奈さんっ!!これはどこに置いたらいいんでしょうか?」



『ああ、えっとそれはですね…資料室の戸棚にお願いします!!』







「はい分かりましたっ!!あ、九条さんおはようございます!!今日からどうぞ宜しくお願い致します!!」











「はい、頑張ってくださいね。」







佐奈の後ろを必死に追いかけ九条に屈託のない顔で挨拶をしたのは、このたび南在探偵事務所に入社した新入社員の成瀬 千咲(ナルセ チサキ)だった。

千咲は佐奈と同じくかつてない就職氷河期にのまれ就職が決まらずいた所、ここ南在探偵事務所に先日突如転がり込んできたのだった。








.......................









「孝之助さん…なんでこんな時に新入社員なんですか…?」





新入社員が入ることを聞かされた九条はバベルの詳しい調査に追われている最中で、明らかに嫌そうな顔で孝之助を見た。






「いや〜…佐奈が来た時の募集の張り紙ずっと剥がすの忘れててさ…それ見て来たらしいんだよ。

他に就職先がないって泣きつかれてな〜…断れなくなっちゃったのよ。」





「なっちゃったのよって…しっかりして下さいよ孝之助さん…。」



「でもまあ正直言うと何か佐奈がうちに来た時のこと思い出しちゃってなあ…それに佐奈もうちに入社して一年だ。もう後輩の指導に当たらせてもいい頃だろ?」



「まあそれはそうですが…。」





確かに佐奈が探偵事務所に入社してからはもう一年以上がたって佐奈も一人で十分使い物になるようになっていたのは事実。

だがただでさえ東雲大臣の依頼のことで手がいっぱいな中新人指導などの手間が入ることを考えると、九条はすんなり首を縦には振れなかった。





「まあそんな邪険にせずともすぐに慣れて使いもんになるさ、実際うちも人手が足りてないのもあるし。」



「…ですが…バベルのことも東雲さんのこともまだ伏せておいた方が。新人に話すにはリスクも話も重すぎると思いますので。」




「ああ、分かってるよ。」





納得いかないようでツンケンした態度の九条に孝之助はケタケタ笑うと、九条の肩をポンと叩いた。





「職がないって困ってる若者を放ってはおけねえだろ、そんなトゲトゲしてたらあっという間に老けちゃうよ、九条っち?」





「孝之助さんにだけは言われたくありません。」


「ヒドイな九条っち…。」










.......................









ー…バタバタバタ…





『千咲ちゃん今度はこのファイルなんですが…これはですね、ここに毎朝入れておいて下さいね!!』


「はいっ!!分かりました!!」









「…。」










千咲が入ってから佐奈はとてもイキイキと楽しそうに指導にあたっていた。

確かに今まで事務所内では紅一点、皆とも仲が良かったとはいえ女同士の仕事仲間が増えたのは嬉しそうにも見えた。




九条は和気あいあいと仕事をする二人を遠目に見て少し緊張の糸を緩めると、ハアと息を吐き仕事へと取り掛かった。







「佐奈さん!!書類の整理終わりました!!」

『ありがとうございます!!じゃあこのファイル、ヒナさんに渡して来てもらっていいですか?』



「朝比奈さん…ですか?」





佐奈がそう言ってファイルを千咲に渡すと、千咲は少し戸惑ったようにファイルを握り締めた。





『どうしたの?』


「あ…いえ、朝比奈さんと話すの…少し苦手で…。」



『…!!』




ヒナと話すのが苦手だと戸惑う千咲を見て、佐奈はなんだか懐かしい気持ちになった。

自分も一年前、初めて会ったヒナの第一印象は最悪で、










何を言っても無視するヒナに業を煮やしていたものだった。





『ヒナさん初めはとっつきづらいかもしれないですけど…根はすごく優しいから大丈夫ですよ!!』



「そう…なんですか…?あまり話しかけても返事をしてもらえないので嫌われているのかと…。」



『そうそう、全然目も合わせてくれなくってね!!何か懐かしいなあ〜ふふふ。

きっとめげずに話しかけてたら話してくれるようになりますよ!!これから一緒に仕事を頑張る仕事仲間なんですから!!』





「佐奈さん……はい!!私頑張って来ますっ!!!!」






そう言って千咲は元気よく頷きヒナの元へ向かうと、佐奈も笑顔でその背中を見送った。

佐奈にとって初めて出来た後輩は想像以上に素直で可愛く、女姉妹に憧れていた佐奈は妹ができたようでとても嬉しかった。




だが、今の佐奈はあっけらかんと浮かれきることの出来ない心配事が一つあったのだ。









ー…バタン




「…ううう…佐奈さぁん…ダメでしたぁぁ〜…。」


『ち…千咲ちゃんドンマイですよっ…!!と…とりあえずじゃあ次は和泉さんに付いて依頼の受け方習ってもらってもいいですか?』




「…はい。」







またもヒナに相手にされずに撃沈ししょげた千咲を慰めると、佐奈はヒナの部屋の扉をノックした。






『ヒナさん、入りますね?』


「…佐奈。」





佐奈が入ってくるとヒナはチラリと佐奈の方を振り返ったが、すぐにモニタの方に居直った。

明らかに機嫌が悪そうなヒナだったが、佐奈は恐る恐ると言いづらそうに千咲の事をヒナに告げた。





『あの…ヒナさん…少し千咲ちゃんにも優しくしてもらえると有難いのですが…。』



「…………何で。」



『何でってあの…それは勿論これから一緒に仕事を頑張る仲間ですし、仲がいいに越したことはないかなと思いまして…』






「………。」








重くのしかかる沈黙とどこか心ここにあらずといった視線。

佐奈がここのところ心配のタネとなっているのがこのヒナの様子のおかしさだった。





東雲大臣の依頼を受けてから数日後、九条がバベルの話をしてからというもの明らかにヒナの様子はおかしくなっていた。

ずっと塞ぎこんだ様子で何を聞いても答えてくれず、心配した佐奈にも距離を置くようになっていた。






『じゃあヒナさん…良ければお願いします…。』







佐奈はそう一言言うとヒナの返事を聞かずに部屋の扉を閉めた。








(なんで何も言ってくれないんだろう………。)









ヒナに何があったのか、どうして何も話してくれないのか。

佐奈にはその何一つ分からず、じわりと零れそうになる涙を拭うと一人肩を落としヒナの部屋を後にしたのだった。





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