リバースヒーロー
□19.佐々の彼氏検定
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ー…ピーチチチ…
「和泉、仕事中に寝ないで下さい。」
うららかな陽気の午後。
春の心地よさに事務所のソファで昼寝をしていた和泉を、九条は呆れたような目で見下ろした。
「あ〜…だって春の陽気が俺に眠れって…ほら…」
「…ったくそんなんだから佐奈さんにも選んでもらえないんですよ。」
「それとこれとは関係ねえだろ!!!!ってあれ、佐奈は?」
「もうとっくにヒナと仕事に出掛けましたよ。」
「……あーっそ。」
九条の小言と佐奈の不在にハアとため息をつくと、和泉はまたソファに気だるげに身を預けた。
「おっさん〜俺のペア佐奈にしてよ〜俺コイツと息が合わないというか息が合わないというかさあ。」
「ははは、そんなことしたらバランス取れないだろうが〜お前がヒナ以上に仕事が出来れば考えてやってもいいよ。」
「あのメガネ以上に…仕事…?」
ヒナは基本仕事以外にやることがないらしく、事務所に寝泊まりをして朝から晩までパソコンに向かい仕事をしている。
そんなヒナの様子を思い浮かべ、和泉はそれ以上に仕事だなんて不可能だと瞬時に判断した。
「というかあんなん彼女と仕事で外回りなんてただのデートじゃねえかよ、いいのかよおっさん!!」
「俺は仕事さえキッチリ終わらせりゃデートいこうがラブホ行こうが構わねえよ〜。」
「そうですよ、どうせ外回りに行ったって和泉はラブホに連れ込む甲斐性ないでしょ。」
「よーし、表出ろこの腹黒男。」
ー…バンッ!!!!!!!!!!!
「?」
三人がわいわいと事務所で談笑している最中、事務所の扉が勢いよく音を立てて開いた。
その先には学生と思われる若い青年が立っており、扉を開けるやいなやその男は三人の顔をまじまじと見た。
「あ、客か?そんなとこ突っ立ってないで入れば…」
「お前だな…。」
「は?」
「お前みたいなやつ俺は許さないからな!!連れて行くより先に俺がここで成敗してやる!!!!!!」
「!?」
男はそう言って和泉を睨みつけると、突如背中に隠し持っていた竹刀を和泉の頭目掛けて振り下ろした。
突然の出来事に驚いた和泉は振り下ろされた竹刀を腕に受け、思わず痛みによろけた。
「痛って!!…っていきなり何すんだこの野郎!!!!」
「お前に姉ちゃんは渡さん!!俺とここで勝負しろ!!俺に負けたら姉ちゃんのことは諦めろ、いいな!!」
「はあ…?姉ちゃんって誰のこと言って…」
「勝負でもなんでもいいけど事務所で"竹刀"の勝負を"しない"でよ………笑」
「孝之助さん寒いです。それにしても和泉にもそんな甲斐性があったとは驚きですねえ。」
「うるせーよ!!!!お前ら人事だと思って面白がりやがって!!!!」
ニヤニヤと状況をはたから傍観している二人をよそに、
状況が全く理解できない和泉は、ジリジリと間合いを詰め殺気立つ男に戸惑っていた。
誰かに手を出した覚えも彼女が出来た覚えも全くない。
身に覚えのないことに短気な和泉はイライラと苛つき始めた。
「いーから竹刀降ろせクソガキ!!危ないだろうが!!」
「うるさい!!姉ちゃんの男になりたいなら俺を倒してからにしろこの野郎!!でやああああっ!!」
「ああああもう何なんだよ面倒くせえなあああ!!!!」
そう言って和泉は男の渾身の一突きをかわし、代わりに渾身の一撃よりだいぶ手加減した一発をくらわせた。
男はその一撃でヨロリとその場に倒れこみ、和泉は面倒くさそうにハアと溜め息を漏らした。
ー…ドサッ
「ったくワケ分からん…………ん?」
和泉は地に伏した男を起き上がらせると、先ほどまでよく見えなかった男の顔を見て不思議な違和感に襲われた。
目鼻立ちや雰囲気、男のそれはどこか見覚えのあるものだったのだ。
「こら和泉、素人相手に手加減しないとダメでしょ。」
「だってこいつマジで打ってくんだもん、竹刀とはいえ痛いんだからなー。それよりさ、こいつの顔見て。」
「「?」」
和泉がそう言って指さした男の顔を孝之助と九条が覗き込むと、二人も何かに気づいたように目を丸くした。
「あれ、これって……」
「もしかして…。」
気絶した男の顔を見て何かに気付いた三人は、お互いに驚いたように顔を見合わせると皆同じ名前を口にした。
「「佐奈?」」
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