リバースヒーロー

□18.姿なき断罪人
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「受け入れてしまったほうが、君の未来につく傷も最小限で済むと思うよ。」





「…。」










冷たい冷たい灰色の壁に包まれた部屋。

少年は透明なガラス越しに発せられたその言葉に、少し寂しそうな笑顔を浮かべた。








「おじさんも僕のこと信じてくれないんだね、もういいよ。」







「待て、これは君のことを思えばこそだ…!!だから待っ…」












ー…バタン…!!!!









彼の寂しそうな瞳の奥の"助けてくれ"という言葉に気が付かなかったわけではない。







でも、あの時の俺は何も


何も、できなかったんだ。




















そして彼はその数日後、




短い生涯を、自らの手で、終えた。
















.......................











ー…コンコン




「はい、開いてますよ。」


「失礼します。」













ある昼下がりの午後、

皆が出払った事務所で一人電話番の為残っていた九条のもとに現れたのは、礼儀正しく頭を下げた高虎だった。






「お忙しいところ申し訳ございません、南在さんは…いらっしゃいますか?」


「南在は仕事で明後日まで戻らないんですよ、どうかしましたか?」





孝之助の不在を知って少し困りながら出直そうとする高虎を見て、九条はお茶を出しながら尋ねた。






「私で良ければ伺いましょうか?和泉もヒナもいませんが。」




「………あ…そうですか…依頼……というほどではないのですけれども…少し耳に入れておいてもらおうと思いまして…。」




「?」










高虎はソファに腰を下ろすと、パソコンの画面を印刷した紙を九条に手渡した。






「うちの組員が見つけたもので、素人の趣味のサイトといえばそれまでなのですが…少し規模も大きく内容が内容で冴嶋組の事も記載されているので気になりまして…」




「管理人、せいぎのみかた…と…死刑執行すべき者…?」






そこに膨大な量羅列されていたのは過去の犯罪者達の名前とその詳しい経歴と罪状、そして人によっては現住所など詳しい個人情報が記されていた。

そしてそこには和泉とヒナ、そして九条の名前もあった。







「すみません…九条さんが見ても気分のいいものではないですよね…。」


「いえ、別にこういったのは慣れてますし。それにしてもまあふざけた正義の味方がいたもんですねえ。」



「…まったくです…。」





「私やヒナの所だけ見ても、好き勝手書いてくれて…ここに書かれている他の人の説明もほとんど本当か怪しいですね。」



「…若についても冴嶋組とのことを書かれてますがそのほとんどが事実を誇張した虚偽です。

本来なら警察に…という話なんでしょうが私はそうもいきませんのでここに…。」





「ヒナにサイトを消させた所でイタチごっこでしょうね。」


「…はい…。」






九条が考え込みながらコーヒーを口に運ぶと、高虎は少しいたたまれない様子で俯いた。







「私のような人間ならばともかく、若や皆さんのように真っ当な道を行こうとしている人間をこんな風に…私はそれが許せません…。」



「…この"せいぎのみかた"さんがただの素人ならマスコミが報じた情報だけを偏った主観で見ているでしょうから仕方ありません。…高虎さんが気に病む事ではありませんよ。」





「…ですが…。」



「とりあえずこの件は私に預けて頂けませんか?私の方で何とかしますので…。」




「はい…お忙しいところ申し訳ありませんが宜しくお願い致します…。」






高虎はそう言って礼儀正しく頭を下げると、九条にそのサイトの資料を手渡し事務所を後にした。











ー…ペラ…






「朝比奈了…冴嶋和泉…と…」




警視庁のデータベースを破壊し個人情報を裏社会に流し、ハッキングしたウェブマネーで大金を得ている史上最悪のハッカー。



冴嶋組の対抗勢力や都合の悪いものを皆殺しにし、必要とあらば一般人にすら手を下す冷酷無比な次期冴嶋組組長。







「和泉に"冷酷無比"って…この説明文のほうが実際より厨二臭くてかっこいいじゃないですか…。」







九条は一人そのサイトに記載されている詳しい説明文を読みながら、自分の知っている仲間との違いに呆れ果てたように笑った。

恐らく今まで起こった事件で死刑になっていない犯罪者達を羅列したそのページは、数十ページに及んでいた。








「あの信じる詐欺の二人が見たら怒り狂いそうですね…。」





ー…ペラ…



九条は更に次のページに目をうつし自分の名前を見つけると、さっきとはまた違った顔で少し笑みを浮かべた。







「…相手が犯罪者なのをいいことに、相手が死ぬまで金を騙し取り続けた稀代の凶悪詐欺師集団のリーダー…」














「へえ……あながち間違いでもないですね。」











九条はそう言うとその書類を誰の目にもつかないように自分のカバンにしまい込み、

一人どこかへ電話を繋げたのだった。




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