リバースヒーロー

□15.かけがえのないヒーロー
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ー…コンコン






「朝比奈さ〜ん、入りますよぉ〜?」



「…。」





甲高く部屋に響いた耳障りな声に、ヒナは振り向くことも答えることもしなかった。

声の主は社長の身内であることをいいことにわがまま放題をしている社長の妹。妹はヒナの姿を確認すると、意気揚々と部屋に入りヒナにぴったりとくっついた。





「相変わらず無愛想ですねぇ〜これからずっと一緒にお仕事するんですから仲良くしましょうよ〜あんまり冷たいとお兄ちゃんに言いつけちゃいますよぉ?」



「……。」



「ん〜綺麗な顔してるのに勿体無いなぁ〜…」







ー…バシッ……!!!!






「……何の用ですか。」





女がヒナの顔に手を伸ばすとヒナはその手を払いのけ、冷たい視線を送った。

自分に向けられたその態度に女は少しムッとしたような表情を浮かべると、ヒナから離れ渋々本来の用件を告げた。







「…兄が…いや、社長が呼んでたわ、すぐに応接室に来るようにって。」


「…分かりました。」




「ふん…!!ロボットみたいで気味の悪い男!!」







自分に少しもなびかなかったヒナに苛立ち女はそう言い捨てると、勢いよくドアを開け部屋を後にした。

社長である兄によく似た傲慢な女の足音を聞きながら、ヒナはソファに腰を下ろし天を仰いだ。






ー…バタバタバタ…












「……佐奈…。」










.....................








ー…ガチャ…






「社長はじきに参りますので少々お待ちください。」





シーギミック社に取引先として潜入した孝之助と和泉、そして佐奈は、ビルの最上階にある見晴らしのいい応接室に通されていた。






「ほお〜さすが50階は高ぇな〜。」


『わ…私ちょっと高所恐怖症なんで正直怖いです…。』





ガラス張りで見晴らしのいい応接室を一同がまじまじと眺めているとガチャリと扉が開いた。

扉の先にいたのは二人の秘書と、数名のボディーガードを引き連れたあの社長だった。






「大変お待たせ致しました。私がシーギミック社社長、柿原徹と申します。」










「…柿原さんどうも、これはまた大層な部下を連れられて…どういったご了見です?」




「ふふ…また白々しいことを…そちらの銀髪の彼、彼が暴れれば私など太刀打ちも出来ませんので…こちらも大事を取らせて頂きました。」






社長はそう言って和泉の方を見てニヤリと笑うと、孝之助も姿勢を崩して笑った。






「…もうバレてるわけね。」


「申し訳ありません南在さん、うちの秘書は優秀なもので…周囲に気を使ってスーツで来て頂いた事には感謝致しますよ。」







「じゃあ話は早い、連れ去ったうちの部下…返してもらいましょうか。」




「…連れ去っただなんて人聞きの悪い…彼は自分で我が社に来てくれたんですよ。」



「…。」






「ですよね、朝比奈くん。」








ー…ガチャ


















『!!!!』









柿原がそう言って扉の方に目配せをすると、そこから現れたのは…半年ぶりに見たヒナだった。

いつもとは違う黒い服に身を包んだヒナは佐奈達を見ても表情を変えることはなく、社長の問いに静かにハイと答えた。







『ヒナさん…!!』


「ヒナ…。」







「言った通りでしょう、ここから彼の意思を無視して彼を連れて行くというのならこちらも誘拐事件として警察に介入してもらうことになります。

シーギミックの優秀な社員を引き抜こうと前科者の集まりが誘拐事件だなんて見出しに出たら…あなたがたの事務所こそもうおしまいですよ。」




「てめえ…自分のした事は棚に上げてペラペラと……!!警察に入られて盗撮のことが知られたらヤバイのはお前らだろうが!!」






今にも殴りかからんとする和泉を柿原は嘲笑うように見ると、とぼけた顔で首を傾げた。







「盗撮カメラ…はて、何の事でしょう?」



「てめえ……!!!!」






「おたくの会社に隠してあったUSBメモリのデータ…こっちはもう証拠として押さえてるんですよ…柿原社長。」


「…。」






孝之助の言葉に眉をひそめた柿原は、後ろに控えていた秘書に目配せをし、孝之助らには聞こえない程の小さな声で確認をとった。





「私が管理しておりますデータ10本は所在確認済です。データを抜かれた形跡もありません。」


「…私所持の物もある……ハッタリか。」

「恐らく。」










「…いけませんねえ南在さん…いくら追い詰められたからといって嘘はいけませんよ、嘘は。」



「嘘?」





柿原の言葉に孝之助はニヤッと笑うと、懐から一本のUSBメモリーを取り出した。

その見覚えのあるメモリーを見た柿原は、表情を一転こわばらせそれを見た。






「昔から俺マジックが得意でしてね、あなたの懐に入っていたUSBメモリーはあら不思議、こんな所に。」



「…!!!!!そんなはずは…!?」





驚いて懐に手を入れた柿原は、思わず隠し持っていたUSBを取り出し確認した。

柿原は自分が持っていたUSBメモリーが本物であることを確認すると、USBを秘書に手渡し孝之助を睨みつけた。





「南在さん…そんな下らない話をしにいらっしゃったのならもうおしまいにしましょう。

朝比奈くんもうちに残ると言っている、そのデータとやらも証拠は何一つない…お話になりませんよ、お引き取り下さい。」





「…そうですか、事は荒立てずに穏便に返してくれるとこちらも助かったのですが。」




「…。」







「そんな死人のような顔のヒナを置いて帰れるほど…俺も落ちぶれちゃいないんでねぇ。」










ー…バキッ!!!!





「!?」








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