リバースヒーロー

□14.ヒナの傷跡
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......................







ー…ハアッ…ハア…






『ヒナさん……』






街中をヒナを探して駆けずり回ること数時間。

陽もすっかり落ちきった街を、佐奈は足を引きずるように歩いていた。






『…………着信…孝之助さんから…こんなに…。』






携帯画面いっぱいを埋め尽くす孝之助からの着信記録を見た佐奈は、ヨロヨロと人目に付かない路地裏にしゃがみ込んだ。

ヒナがいなくなったという受け止められない現実と、私情で仕事を放ったらかしてきた自分への自己嫌悪に、佐奈の目からは涙が溢れていた。





(私バカだ…勝手にこんな仕事ほったらかして……みんなきっと呆れてる…。)





「お姉さん、何泣いてんの?」

『!?』





突然かけられた声に佐奈が驚き顔を上げるとそこにはいかにもガラの悪そうな男が三人、佐奈を囲むように立っていた。

そこで初めて自分が入り込んだ路地がとてつもなく治安の悪い場所だったことを思い出した佐奈は、その場を離れようと立ち上がった。






『あの…何でもないです…大丈夫ですので…。』


「何でもない事ないでしょ〜目、真っ赤じゃん。失恋でもしたの?」



『あの…どいて下さい…私連れが近くで待ってるので…。』


「俺らちょっと前から見てたけどあんた一人だったでしょ、嘘ついたって駄目だよ〜俺らも男ばっかで暇でさ、遊ぼうよ。」



『…。』






どうもまともに言葉を交わしても通じる相手ではないことを理解した佐奈は、全速力でその場から走り去った。





(逃げなきゃ‥そうだ…電話!!!)






走りながら佐奈はとっさに握りしめた携帯で孝之助に電話を繋いだ。

だが走り通しで疲労しきっていた佐奈に男三人から逃げ切る体力は残っておらず、大通りに行きつくまでにあっけなく捕まってしまった。






ー…ガッ!!!!!!!




『は…離して!!誰か…助け…!!!!』

「うるさいよお姉さん、この辺女1人でウロウロしてるなんて…ヤってって言ってるようなもんなんだよ?」




『…!!!!!』




男達は手に持ったナイフをちらつかせると、佐奈を更に人目に付かない建物の陰に押し込んだ。






『やっ…いやっ…離…!!!!』


「すぐ済むから好きな男の事でも考えてなよ。」












男のその非情で残酷な一言に、佐奈の脳裏にはヒナの姿が浮かぶ。

でもそれはもう会えないかもしれない人の姿。佐奈は目から一筋の涙をこぼすと、抵抗していた力を抜いた。








「そうそう、大人しくしてりゃいい…」







ー…バキイッッッ!!!!!!!!!!!!!















「!????」



「佐奈!!!!!!」







佐奈が全てを諦めかけた途端、自分にのしかかっていた男の姿は消え、それと同時に現れたのは息を切らした見慣れた顔だった。








『和泉…さん…!!』








佐奈に駆け寄った和泉は、佐奈の乱れた衣服と引きずられてできたであろう傷を見て表情を一変させると、

息巻いて斬りかかってきた男を一撃で気絶させ、もう一人の男を気絶させない程度に殴り飛ばしゆっくり近づいた。






「うっ…!!」



「……俺はな…婦女暴行なんつうプライドの欠片もねえような事するクズが死ぬほど嫌いなんだよ。」






ー…コツ…コツ



「…ひっ…!!」





圧倒的な力の差を感じ逃げる事すらできなくなっている男に、和泉は容赦なく奪ったナイフを振り下ろした。

ナイフは男の太腿横数センチのズボンだけを貫くと、刃は勢いよく地面に当たって折れ散った。









「今度佐奈に近づいてみろ、てめえらのそれ切り取って二度と使えねえようにしてやるからな……!!!!!」










「…は…は…うわあああ!!!!!!」








和泉の恐ろしいまでの気迫に圧倒された男は恐怖で上手く動かない足を必死に動かし、

気が付いた仲間二人と共に一目散にその場から逃げ去って行った。









『い‥ずみ…さん…すみませ…』






「傷大丈夫か?他は何もされてねえか!?…佐奈?」


『はい…………大丈夫です…!!!!』







解き放たれた恐怖と和泉の優しい言葉に佐奈はその場に崩れ落ちた。

そんな佐奈に和泉は少し戸惑いながらも、壊れ物を扱うようにそっと優しく抱き締めた。








「本当はヒナが駆けつけられたら一番良かったんだけどよ‥俺で我慢してくれよな…。」













『そんな事…ありませ…!!!うっ…うわあああああ…!!!!!』


「大丈夫、ヒナもすぐ帰ってくるから、な…?」






いつもとは違った、子供をあやすような優しい和泉の声と温かい胸に、佐奈の目からは止めどなく涙が溢れた。







「帰ろう、おっさん達も心配してる…。」


『はい…本当に…すみませんでした…。』







佐奈はそう言って流れ出る涙を拭うと和泉に手を引かれ、夜の街を事務所まで戻っていった。



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