リバースヒーロー

□13.引きかえに、守りたいもの
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ー…ピーチチチ




『……。』










あれから数日後、佐奈はデスクで一人考え込んでいた。

というのも、あの日以来ヒナがネット関連の大きな依頼を受けた為でもあったが、何だか気まずくてヒナの近くに近寄れていなかったのだ。





(最近またヒナさん部屋に籠るようになっちゃったし…ダメだ…このままじゃ…。)





意を決した佐奈が立ち上がりヒナの部屋へ向かうと、タイミング良く部屋のドアが開いた。






「佐奈…。」



『ヒ…ヒナさん…!!お仕事…セキュリティの調査だとか…えっと一段落つきました?』



「今から依頼人に報告。」




『そう…ですか。』






たいした意味もない会話を連ね、ヒナは佐奈のそばを離れて行った。

いつもと変わりないと言えばそれまでだが、どこからか漂うこの違和感に佐奈はまた不安を募らせた。







(だからってどうしたいんだろう私…聞けばまた拒絶されるだけなのかもしれないのに…。)






佐奈はまたガックリと肩を落とすと、すごすごと自分のデスクへ戻っていった。






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ー…バサッ






「こちらが今回の依頼の結果になります。」






ヒナが依頼人の男性に書類を渡すと、依頼人は少し興奮したように報告書を手に取った。





「あの完璧と言われたセキュリティでも侵入されるとは…もう逆に素晴らしいの一言だよ。あの使えないエンジニアもクビだなぁ。」


「…ですが御社のセキュリティは明らかに一般的なセキュリティより数段上の強度はありますし、十分かと思いますが。」







「だか君はそれに難なく侵入出来るんだろう?」





「……私はもう、そんなことするつもりはありませんから。」










ヒナのその言葉に、依頼人の男は何か言いたげな顔をしながらニッと笑った。






ある企業の社長であるというこの依頼人の今回の依頼は"自社のセキュリティシステムの強度調査"。

どこからかヒナの噂を聞き付け、会社内のエンジニアが組んだセキュリティシステムに穴がないのかを見て欲しいと、幾度も幾度もヒナのもとを訪れていたのだった 







「君が突破できないようなセキュリティを組む為に、有能と言われるエンジニアを何人も揃えてはみたが…まだ敵わないか〜。」


「……そんなに大切なデータでしたらもうインターネットに繋がない方がいいのではないでしょうか。どんなセキュリティにも穴はありますので。」






強度調査と銘打っては何度も何度も新しいシステムの調査を持ってくるこの依頼人に、さすがのヒナも嫌気がさし冷たく言い放った。

だが当の依頼人はニヤニヤと態度を変えることなく、鎌をかけるような質問を投げかけた。







「でもそれをかいくぐれるのは…さすが天下の朝比奈了、と言ったところなのかな?」



「……仰っている意味が分かりませんが。」



「あはは冗談だよ、そんな怖い顔しないで。俺は君の事買ってるんだよ?本当に、うちの社員に欲しいくらいに。」






男はそう言うと、急に真面目な顔でヒナを見据え、会社の名刺を取出しヒナの前に差し出した。






「これは真剣な話、ここの収入の10倍出すよ。うちの会社に来てくれないかい?」




「ここを辞めるつもりはありませんので。」




「今すぐに返事をしてくれとは言わないから考えてみてくれないか?君はこんな所で細々と働くような人間じゃないと思うよ。」








男はそう言い残し軽く頭を下げると、ヒナを残し事務所の応接室を後にした。















ー…プルルルルル…ピッ







「…ああ、今事務所を出たところだ。やはり"あの"朝比奈了で間違いないよ、技術共に申し分ない。」







男は高揚する気持ちを押さえながら電話口にそう言うと、南在探偵事務所の入ったビルを見上げた。







「入社はあっさり断られたけどね、何が何でも手に入れてみせるさ…朝比奈にはそれだけの価値がある。」










『ヒ…ヒナさん…!!お昼…一緒に食べませんか?』



「…うん。」

















事務所を取り巻く暗雲の影。
















それは佐奈の知る由も無い所でゆっくりと




だが確実に、忍び寄りつつあったのだった…。





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