リバースヒーロー

□12.偽物恋愛トラッパー 
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「息子の婚約者をたぶらかして下さるかしら。」








ギラギラと沢山の宝石を身に着けた高圧的な依頼人の放ったこの一言に、

話を聞いていた佐奈と孝之助はその場で凍りついた。






「えーと…婚前の信用調査…という事ですかね?」


『信用…調査…?』





聞き慣れない言葉に首をかしげる佐奈に、孝之助は持っていた資料を佐奈に手渡した。





結婚信用調査とは結婚前に相手の素行、風評、借金、両親の勤務先や家族構成などを秘密裏に調べることで、

最近は珍しくなりつつもあったが昔からよく行なわれていた調査の一つであった。






(け…結婚前にこんな事調べたりする人がいるんだ…!!!!)





1人驚く佐奈をよそに、依頼人は淡々とした口調で続けながら、一枚の写真を鞄から取り出した。

写真には幸せそうに微笑む一組のカップルが写っており、女の子はとても穏やかで優しそうで何の問題もなさそうに見えた。






「…正直私は息子の結婚に反対なんです。うちの家柄や息子に釣り合わない貧乏な家の娘でしてね。」




「………はぁ…それでは、一般的な身辺調査で構いませんか?」


「いえ、借金やあらかたの調査は別の事務所で済んでいるのよ。」




「…と、申しますと?」




解せないと言う顔で孝之助が依頼人を見ると、依頼人は別事務所の報告書を取り出した。





「ここに頼みたいのは先程も申し上げた通り、あの娘が本当に浮気をしないのかどうか試して頂きたいの。

前の事務所でもやってもらったんだけど40代の中年の調査員がやったらしくて…そんな枯れたおじさん恋愛対象にならないんだから意味ないでしょ?」






「・・・。」

『……。』











明らかにイラッときたような顔で孝之助は相槌を打つと、

明らかにイラッとした口調で目の前のおばさん…もとい依頼人に言葉を返した。





「確かにうちには若い調査員が多いですしそのうち一人はその方面に精通してますが…本当に破局させかねませんよ。」



「構いませんわ、なんならその方が都合が宜しいので。」









『……。』





そう冷たく言い放つ依頼人に佐奈は言葉を失った。



調査されるというその女の子はこんな姑がいる家に嫁いで本当に幸せなのだろうか。

全く関係ないおせっかいながらも、佐奈はその子の事が心底心配になっていた。






そして依頼人は"頼みましたわよ"とだけ告げると、終始変らぬ高圧的な態度で事務所を去って行った。







.....................






ー…バタン





「……。」

『……。』






「ああああああああああああああああああああああああああああああああああイラつく!!!!!!40代なめんじゃねえぞ!!枯れてねえわ!!まだヤれるわーーーーーーー!!!!」





『ど…どこにキレてるんですかっ!??』





依頼人を見送った途端、今まで抑えてきた怒りが爆発した孝之助を佐奈は必死になだめた。





「珍しく荒れてますねぇ、どうしたんですか?」


『く…九条さん…ちょっと依頼人が嫌な方で…これ、次の依頼書類です…。』






「へえ…信用調査?」





『私びっくりしちゃいました…こんな調査があったんですね‥結婚前にこんな事調べるなんて…。』



「昔は結婚だけじゃなくて雇った新入社員の素行を調べるとかもよくあったんだよ、今は不景気だからそこまでする所は減ったけどね。」





『そう…だったんですか…。』






九条は佐奈から受け取った依頼書類にパラパラと目を通し終えると、少し笑って言った。







「でもこれ…私が行ったら本当に別れることになりかねませんよ?」



「…いんだよ、全力で別れさせてやって…きっと今は辛くともその子の為だ。あんなクソババアの所に嫁ぐなんて地獄も同然ブツブツ…。」

『こ…孝之助さん〜〜!!』





やさぐれながらブツブツと文句を言う孝之助を見ながら、九条は面倒臭そうにハアと溜め息をついた。





「じゃあそのつもりでいいんですね。これって誘いに乗られたらその後はどうすんですか?音信不通にでも…?」






「…なあ佐奈、40代だって最近は20代の恋愛対象になるよな?お父さんなんかに見えないよな?な?」

『は…はいっ!!孝之助さんなら絶対大丈夫です!!私のお父さん50代ですし!!私が保証します!!』



「だよなだよな?あ〜良かった〜!!!」




「話を聞け40代。」















こうして始まった少し変わった結婚前の信用調査。




あっけなく九条が女の子をたぶらかし、あっけなくこの依頼は幕を閉じるはずだったのだが、

事態は思わぬ方向へと転がり始めたのだった。




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