リバースヒーロー

□11.正義の詐欺師
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九条の事から頭を切り替えようとヒナと共に依頼人の話を聞いていた佐奈だったが、

この日の依頼人が告げたのは、またもやこのワードだった。






『結婚"詐欺"…ですか……。』



「…佐奈?」

『あ、いや…何でもないです。』




「姉の婚約者だった鷲谷晃という男なんですが…

病気持ちで仕事が出来ないだとか言って散々姉に生活費と通院代を出させた挙句、婚約届を出す直前に失踪したんです。」




「ベタな…。」

『ヒ…ヒナさん!!』





相変わらず愛想の無いヒナに気を遣いながら、佐奈は依頼人に言葉を選びながら尋ねた。




『えっと…被害を受けられたのははお姉様ということですが…お姉様は本日は…?』


「姉は自分にも非があったんだってそればっかりで…だから今日私がここに相談に来たことも知りません。」




『それで妹さんだけが代わりにいらっしゃった…と…。』



「だって悔しいじゃないですか…特に裕福でもない優しい姉の、一生懸命働いたお金を騙し取られて…あいつはきっと今もどこかで他の女と遊んでるのかと思うと…。」





そう言うと、依頼人はギリッと拳を握りしめて悔しそうな表情を浮かべた。





「…本当にその男が病気で、亡くなったという事は?」

「それはありません!!私、あいつが姉にお金を貰って病院に行くって言って、他の女と買い物に行っているのを見たんです…!!」



「……。」




結婚詐欺の証拠と言うにはあまりにも不確定な根拠。

そんな依頼人の言葉に、ヒナは少し困ったように顔をしかめた。





「では今回の依頼は対象が詐欺を故意に行ったかを確かめ証拠を得ると。」



「はい…あと…あの、お金を返してもらうことは出来ないんですか…?」



「…そこから先は普通は弁護士の仕事になります。調査は進めておいても構いませんが、どのみち一度ご本人にもお越しいただいた方がいいと思いますが。」






「…わかりました。」






そう言って依頼人は頷くと、対象と姉の写真を二人に渡し、

よろしくお願いしますとだけ伝え事務所を後にした。







.........................






ー…バサッ





「今回の件は九条っちにメインで動いてもらえ。」




調査資料に目を通した孝之助は、そう言ってヒナと佐奈から資料を預かった。





『な…何でですか!?私がその男に近づいた方が早いじゃないですか!!それに九条さんは今…』

「相手が本当にその手の詐欺を繰り返しているプロならお前なんか正体も見抜けねーしヒナはコミュニケーション能力無いから対象に自然に近づくのは無理だ。」






『うっ…。』

「……。」










孝之助にバッサリと図星を突かれた二人は黙り込み、孝之助はデスクで書類を片づけていた九条を呼んだ。






「何でしょう。」


「今回の件なんだけど、この二人じゃ心もとないから手伝ってやって。結婚詐欺師の裏取りだってさ。」




「…結婚詐欺?」





その言葉に九条は少し顔をしかめると、孝之助に渡された調査資料に目を通し始めた。





「はあ‥分かりました。居場所さえわかればすぐに手は打てると思います。」


『し…証拠が得られるんですか?どうやって…?』









「自白させれば済む話でしょう。」





『・・・はい。』





そうあっさりと答えた九条に、佐奈はそれ以上突っ込まず黙ってコクリと頷いた。





「依頼人は被害者の妹なんですね、で…被害者が………安懸…小春…?」












『さすが九条さんです!!その苗字"やすがね"ってよく読めましたね!!私全く読めなくって‥。』






「………………。」

『…九条さん?』


「あ…すみません、そうですよね、珍しい苗字ですよね……。」





調査資料を見て明らかに顔つきが変わった九条だったがそれはほんの一瞬で、

またいつもの笑顔に戻り、いつも通りニコリと笑って見せた。





「じゃあ…対象の男の捜索までは二人にお願いしていいかな、あと依頼人との話も後で報告して。」


『え…九条さんは直接被害者とお話されないんですか?』


「今まだもう一つの仕事が残ってるから、ごめんけど頼むね。」






『…?はい、分かりました。』





そう言うと九条は孝之助に頭を下げ、そそくさと応接室を後にした。


その様子にやはりどこか引っかかる佐奈だったが、それがこの案件のせいなのか、彼女との別れのせいなのか佐奈にはまだ分からなかった。





「佐奈、資料まとめてコピーするからかして。」

『あ…はい、私も手伝いますヒナさん!!』






ー…バタバタバタ 




「…。」





3人が去った応接室で孝之助は一人ソファに腰を下ろすと、何かを考え込むように資料に再度目を通した。

孝之助もまた、九条の発した違和感に気付いていたのだ。









「安懸か……まさかな…。」








そうポツリと呟くと、孝之助は調査資料をポイとデスクに置き、ほんの少しの不安をかき消すように持っていた煙草に火をつけた。



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