リバースヒーロー
□11.正義の詐欺師
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ー…ガチャ
「ただいまー…母さんこれお土産、前に食べたいって言ってたシュークリーム買って来たよ。」
「…。」
「母さん?」
ー…ザー……
ー…ザー……
「…母…さん…?」
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『おはようございます九条さん!!』
「…おはようございます。」
いつもと変わらぬ朝。
いつもとは少し違った笑顔で挨拶をした九条に佐奈は驚き、近くにいた孝之助達にこっそり尋ねた。
『あれ?何か九条さん怒ってます…?私なんかしましたかね…?』
「朝から全員にあんな感じだよ。腹でも痛いんじゃねーの?」
「あれだよあれ、ついに彼女にフラれたんじゃ…」
「人の噂話をする時はもう少し本人から離れたところでしましょうかー。」
『「!!!!!」』
こそこそと話す三人の背後に突如現れた九条は、持っていたファイルを和泉の頭にギリギリと置いて言った。
「和泉が正解ですよ。」
「『・・・え?』」
『わ…別れちゃったんですか…!?なんで‥』
"何で"と尋ねたものの佐奈はハッと思い直して口をつぐんだ。
『…あ…いえ、すみません…!!』
「いえ、いいですよ。」
気まずそうにする佐奈に、九条は淡々といつもの笑顔で続けた。
「いつもの事です。どこからか私の前科がばれて信じて貰えなくなっておしまい。ま、もう本当にいつもの事なんで気にしないで下さい。」
『九条さん…。』
「九条…」
「ほら和泉、仕事行きますよー。」
「お…おう。」
そう言って少し寂しそうな笑顔を見せ和泉と共に部屋を出た九条に、あんな事を聞くべきじゃなかったと佐奈は心底後悔した。
「佐奈、お前が気にすることじゃないよ。」
『はい…でも…いつもの事ってそんな………。』
辛そうに言葉を詰まらせる佐奈に、孝之助は煙草に火をつけながら言った。
「前科が"詐欺"ってのはね…やっかいなもんなんだよ。再就職も結婚も、あいつはそれで何度も駄目になったんだ。
どれだけ真面目に働いても、優しく接しても、皆騙されてるんじゃないかって思うみたいでさ。」
『そんな…。』
「佐奈は思った事ない?そんな事。」
『あ…ありません!!!!そんなのあるわけないじゃないですか…!!』
弾かれたように必死になって答えを返した佐奈に孝之助はフッと笑うと、佐奈の頭をポンポンと撫でた。
「ありがとな…そう思ってくれてる奴が周りに"四人"もいんだ。大丈夫、あいつは幸せだよ。」
『…孝之助さん。』
確かに初めに"詐欺師"だったと聞いた時は驚いたし、少し身構えもした。
でもその不安は一緒にいるにつれて薄れていって、今じゃそんな事、こうして改めて言われるまで忘れていた。
ヒナと九条が一体何をして捕まったのかぼんやりとしか知らないが、それ以上知りたいとも思わなかった。
だって和泉もヒナも九条も、当然だけれども普通に優しくて、なんら普通の人と変わらなかったから。
「罪を償っても…そのレッテルは消せないものなのかねぇ…。」
『…。』
いつも彼女の話になると"どうなんだろうね"と言葉を濁していた九条。
いつもどんな気持ちで言っていたのかと思うと、佐奈は胸を締め付けられた。
「…まぁ俺らが落ち込んでても仕方ない。さ、仕事仕事!!」
『………はい。』
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