ブリキの歴史覚帳

□第二話 時空を超えた迷子
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ー…バキバキイッッ…!!!!……ドサッ…




「……へ?バキ…?」




殺されたと覚悟を決めたこまだったがその体には少しの痛みもなく、

腰を抜かしたこまの遥か彼方に先ほどの雑兵は吹き飛ばされたようだった。





「娘!!大事ないか!?」








「へ?は…はいっ…!!!!」





こまを襲おうとしていた雑兵を殴り飛ばしてくれたのは、その立派な甲冑にはそぐわないまだ少し幼さの残る少年だった。

少年はバッキリと折れてしまったらしい槍を眺めては苦笑いを浮かべた。




「槍でもやはり折れるか…どうしたものか…。」


「あ…あの…ありがとうございます…!!」

「いや、構わ………なっ…!!」





少年はそう言って声をかけたこまの姿を見ると慌てたように視線を外し、懐から取り出した手ぬぐいをこまに渡した。





「ゴホン…み…身ぐるみを剥がされたか…そのような姿ではまた襲われる、我のものですまぬがこれで隠すと良い…。」

「身ぐるみを…?え?あ、スカートのこと?いやこれは…」








「若!!若!!どこです!!」

「!!」




こまが慌てて誤解を解こうとしていると、少年の背後から人を探す声が聞こえ、こまはビクッと体を震わせた。




「案ずるな、味方だ。板垣!!かように大きな声を出すでない!!」



(若……?)





「それよりもここにも直にまた兵が来る、急ぎ逃げよ。」

「は…はいっ…!!ありがとうございました!!」


ー…コロンッ……





「ん?おい!!何か落としたぞ!!…行ってしもうたか………これは…?」





こまが逃げ去った後、少年はこまのポケットから再び転がり落ちた口紅を拾い首を傾げた。

キラキラと光るその装飾は少年が今まで見たことのないもので、少年はしばしその美しさに見とれていた。





「若!!探しましたぞ!!一人で突っ走るのはおやめくださいませ!!槍が折れてしまっておるではないですか!!」



「あはは、すまんすまん。これもまた折れてしまった。」

「ですから晴信様は力まかせに武器を振るっては必ず破壊してしまいます故こう、うまく切るようにせぬと………ん?それは何でございますか?」




そう言うと、少年に駆け寄った初老の武士は握られていた口紅をまじまじと見つめた。




「分からぬ。先程助けた面妖なおなごが落としていった。」

「ほう…金細工でございましょうか…?見たことのない形でございますなあ。それはそうと早く戻らねば、御屋形様が大層ご立腹でございますぞ。」




「そうか…相分かった。」









ー…バタバタ…





「あの子のおかげで助かった…これでひとまず安心できる……。」





少年のおかげで何とか難を逃れたこまは、森の中に再度身を隠した。

そして落ち着いてもう一度ガンウェアの電子壁を自分の周りに発動させると、安心したように一息をついた。





(あんな中学生くらいの子まで戦ってるんだ…それにしても…私のこのスカートはこの時代からしたら身ぐるみ剥がされたように見えるわけね……。)




可愛いと思ってひらひらと着飾った自分のミニスカートが今では恨めしく思われ、

こまは少年に借りた手ぬぐいを、スカートの腰元にぐるりと巻きつけた。





「あれ…この手拭にもさっきと同じ紋がある…武田の家臣の子なのかな…ってあれ!?無い…無い!!」





こまは手ぬぐいを巻きポケットを触ると、タイムレーンで追いかけた口紅がポケットから無くなっているのに気が付いた。

必死に左右のポケットをあさったが口紅はどこにもなく、こまはがっくりと肩を落とした。




(はあああ…初めての給料で買った思い出のシリアルナンバー入りの限定リップ…あれ追いかけて戦国に一人飛ばされたのにまた無くすなんて…)




「私ホント…何やってんだろ…。」





「…こまちゃん!!こまちゃん聞こえる!?大丈夫?」

「……蛍さん!!」




がっくりと肩を落としていたこまはガンウェアから聞こえた蛍の声にガバリと顔を上げ、すがるような思いでガンウェアを繋げた。




「何かいい手がかり見つかった?こっちも探してはみとるんやけど…」



「手がかりはまだ…あ、でも今中学生くらいの立派な鎧を着た男の子に助けてもらって…その男の子も武田の紋の付いた物持ってて、板垣って仲間に若って呼ばれてました。」




「中学生くらいの武田の若に…板垣…?」

「それって…おい、そのガキにもう一回会って名前と合戦相手聞いてこい!!」




「えっ!!…だ…だってま…ザザザ……あ…あれ?」




御幸達とガンウェアでいつもどおり連絡をとっていたこまだったが、

突如混じり始めた不安定なノイズに慌ててガンウェアを見ると、こまはその画面に信じたくない数字を見つけてしまった。





「じ…充電残り…15%!!!!!!????」






「な…何いいいい!!!!」









無情にも告げられたタイムリミットにこまが慌てふためいていると、ガンウェアの向こう側から怒りを含んだ声が聞こえた。






「ま…まさかお前……充電してきたよな…?なあ?」

「え?充電って初回はされているものじゃないんですか・・・?」




「甘えてんじゃねえアホか!!しかもまさか武器化してねえだろうな!!消せ!!今すぐ消せ!!」





「な…死ねっていうんですかーーー!!」

「自業自得だろボケが!!!!」

「二人共!!もう無駄話はやめときい!!電池が減るっ!!!!」





蛍の制止に我に返った御幸は、ハアと溜め息をついてこまに指示を出した。





「確定じゃねえが多分お前が会ったガキは信玄…いや、その時代なら恐らく"武田晴信"だ。

本当にそいつが晴信なら、そいつの年齢と合戦相手でだいたいの場所と時間軸が割り出せる。だからそいつをもう一回探しだして聞き出せ。」




「あの子が…武田信玄……!?」




「可能性は高い。いいな、今後は有用な手がかり以外に連絡はしてくるな、充電がなくなったら終わりだ。あと武器もナイフを使うかそのガキに取り入って守ってもらえ。以上!!」

「こまちゃん!!手がかりが見つかったらすぐ言うんよ!!僕達もこっちから探してみるけんね!!」





「え?あ…ちょっと待って………!!」

ー…ツー…ツー…





一方的に切られた御幸達の連絡にしばし呆然としていたこまだったが、

ガンウェアの10%に減った電池表示に目をやると、電子壁を消し腹をくくったように立ち上がった。






(こんなところで死ぬなんて絶対に嫌!!あの子を見つけ出して…キラキラした私の時代に意地でも帰ってやる!!!!)






覚悟を決めたこまはナイフを手にして元来た道の方をじっと見やると、

ざわざわと人の気配を感じながらも少年と先ほど会った場所へ、一目散に駆け出していったのだった…。









ー…ツー…ツー…





「御幸…本当にこまちゃんが会ったのは武田晴信なんかね…?」



「………知らん。」

「やっぱり。」




こまとの電話を切った後、御幸は蛍の言葉にガシガシと頭をかいた。

さっきまでこまには毅然な態度をとっていた御幸も、予想外の事態に少なからず動揺の色を見せていた。




「甲斐の板垣って言えば、室町時代から武田家に仕えてきた譜代中の譜代だ。

"武田家の若に仕えた板垣"の例は恐らく晴信だけじゃない、父の信虎の幼少期かもしれん。」




「それじゃあ…」




「……ただでさえ不安なんだ、少しでもゴールが見えねえとあいつも動く気がしねえだろ。俺達も武田家を中心に探しに行くぞ。」


「うん…そうやね…。」









長い長い時の中ではぐれてしまった御幸班は唯一の希望をこまに託した。



そして宇宙の中から米粒を探す程無謀な探しものを探すため、二人はまた別の時代へと消えていったのだった…。







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