オリキャラの話

□虚偽
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流石シティというだけあって、一歩出ればビルだらけ。

(こーゆーのをコンクリートジャングルって言うんだな…)

ナツ自身、都会の大きな建物に慣れてはいない為、ビルを見上げはぁーと感嘆のため息をつく。若干の息苦しさを感じながらビルに囲まれた大通りの人込みをくぐり抜け、そこから少し入った所にある植え込みに囲まれた大きな池が並ぶ広場を抜け、大階段を上る。
ガードマンの立つ自動ドアを入り、多数の人が行き交う広いエントランスホールの中央にある受付へ向かう。
ナツは受付の女性に声をかけた。

「あの、すみません」
「はい、なんでしょうか?」

受付の女性は笑顔で対応する。

「商品開発部のスギシタ・ツトムを呼んで頂けますか、ナツが来たと伝えて下されば分かると思いますので」
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」

受付の女性は社内電話を使って連絡を取る。暫くのやりとりを経て、女性は受話器を置き、ナツに結果を告げる。

「お待たせ致しました、暫くしましたら降りてきますのであちらのロビーでお掛けになってお待ちください」

ありがとうございます、と一礼してナツは言われた通りロビーの椅子に腰掛けた。

(いよいよか…)

心なしか緊張気味のナツをボールの中から心配そうに見つめるキトとオウヒ。それを知ってか知らずか、少しでも気を紛らわそうとロビーの吹き抜けを見上げる。

(あー、こんなデッカイ会社に勤めてんだ、改めてすげぇなぁ)

空調の利いた会議室で、あれやこれやと議論してそれなりの月給を貰って家族を養い、生活する。所謂普通の中間管理職のサラリーマン。
1年中、傷だらけの、泥だらけになりながら辺境の地を渡り歩き、命を危険に晒す事もない。

(……って、何考えてんだ!全く別の人間なんだ、比べたって仕方、ないだろ)

目を瞑り首を横に振って己の浅ましい思考を振り払う。すると、聞き覚えのある声が耳に入る。

「おーい、キミキミー!」

声の方へ顔を向けると、研究員らしい白衣を着た男性が手を振っている。

「あ、昨日の!」

それは昨日、森で助けた男性だった。ナツは立ち上がり男性と対面する。

「いや〜あの時はキミのおかげで助かったよ、ありがとう!そうだ、お礼にこれをあげちゃおう」

男性はナツにスーパーボールを手渡した。

「別にお礼なんて…」
「いやいや、そんな謙遜せずに!キミの様な善良なトレーナーに使われてこそ、道具ははじめてその真の価値を発揮するんだよ!」

道具を作る者としての情熱なのか、男性のあまりの力説っぷりにナツは何も言えなくなった。

「それじゃわたしは仕事に戻るよ、キミは強いから心配ないかもしれないけど、気をつけてね」
「はい、あ、ありがとうごさいます」

男性はそう言って早々に戻って行った。奪いにきた者を退けたら逆に自分は良い物を貰えた。世界は本当に不思議だな、と思いながら
ナツは貰ったボールをバッグにしまい、一息つく。

「ナツ!」


奥にあるエレベーターから1人の男性が駆け寄ってくる。

「ツトムさん」

細身に薄いライトグリーンのポロシャツと白のスラックス、ワックスでしっかり整えられた明るい茶髪の誠実そうな顔立ちの男性。
彼がナツの義父、スギシタ・ツトム。ナツは無意識に眼鏡の位置を直し、目線を下げた。

「いや、すまないね、待ったかい?」
「いえ、こちらこそすみません、お忙しい時に連絡もなしに押し掛けて」
「いいんだよ、何か用があって来てくれたんだよね?一体どうしたんだい?」
「あの、これのお礼が言いたくて…お仕事の方が忙しいのに俺の為にこれだけの物を揃えて頂いてありがとございました」

ナツは腰のバッグに手をかけ、深々と腰を折り曲げ頭を下げるが、動きが少し、ぎこちない。

「アハハ、そんな事気にしなくてもいいのに、それに仕事にかまけて、記念すべき君の旅立ちに立ち会えなかったんだ、これ位当然だよ」

ツトムは笑いながら言うが、こちらもどこがぎこちなさを感じる。

「えっと、所で旅はどう?順調かい」
「ええ、まぁ」

「どんなポケモンを捕まえた?」
「博士からはキモリを、それと途中の森でスバメを仲間にしました」

「次の目的地は決まってるのかな?」
「一応、次の定期船に乗ってムロ島に行こうと思ってます」

「お母さんにはマメに連絡してあげて、特に心配しているから」
「はい」

「・・・・・」
「・・・・・」

弾まぬ会話に、お互い話のネタが尽きてしまった。気まずい雰囲気の中、ふと時計に目をやった。

「あ、もう船の時間だ!それじゃ俺、これで失礼します」
「あ、ああ。気をつけて…」

ナツはペコッと頭を下げてその場から逃げるように走り去った。ツトムは何か言いたげにその背を見つめていたが、諦めたようにため息をついて仕事が山積みの職場へ戻って行った。
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