オリキャラの話

□旅立ち
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彼らが来るのは8時過ぎの予定なんだけど、もし君さえよかったら、先にポケモンを選んでもらえないかな?」
「え?」

ナツは二口目を口に運ぼうとしていた手を止める。

「5年も我慢したんだ、その位の権利はあって当然だよ、それに10歳児と肩を並べてっていうのもキツいだろうからね」

そう言って、あっという間にトーストを平らげる。

「博士…ありがとうございます!!」

博士からの思わぬ計らいに喜びがこみ上げる。

「さてと、僕は言われた通りシャワーを浴びて着替えてくるから、片づけが済んだら先にポケモン達の所へ行って待っていてくれるかな」

博士はグイッとコーヒーを飲み干し立ち上がった。

「分かりました!」

ナツは大急ぎで残りのトーストを頬張り、カフェオレで一気に流し込んだ。それを飲み込んで一息つくとすぐさま食器を流しへ持っていき片づけを始める。ヤクモ博士はその様子を微笑ましげに肩越しから見て浴室へ向かった。

もの凄い勢いで片づけを終えたナツは初心者用ポケモン達の居る部屋へ急いだ。その途中、ふとあたりを見回す。

(とうとう今日で此処ともお別れか…)

この5年間、本当に色々なことがあった。高い木に登って降りれなくなったエネコを助けたり、脱走したマンキー達との壮絶な追いかけっこ、炎タイプ同士の喧嘩が原因で危うく研究所が燃えそうになったこともあった。他にも普段では起こり得ないような珍事が数え切れないほどあった。そんなことを思い出しているうちに、部屋の前までたどり着いていた。

(なんか、緊張するな…)

一度深呼吸をしてナツはドアを開けた。
部屋の真ん中にあるテーブルの上に、専用の台に乗せられた3つのモンスターボール。ボールの前にはネームプレートが置いてあり、その中にどのポケモンが入っているか一目で分かるようになっている。

この中に、これから共に旅をするパートナーがいる。そう考えると自然と口角が上がっていく。ナツはこの5年間初心者用ポケモンに関することには全て関わらなかった。自分と同い年、そして年若の新トレーナー達を見る度に、彼らを羨んだり、自分を哀れに思うことが、何より辛かくて仕方なかった。だがそれも今日で終わり。我慢してきた感情が一気に湧き上がって、思わず胸が熱くなる。やっと旅に出られる。これで、やっと…

「いや〜、おまたせ」

そこへ着替えを済ませたヤクモ博士がやってきた。きっちり整えられた髪型、シワ1つない白衣、ノリの利いたワイシャツ、先ほどとはまるで別人のようだ。

「で、どのポケモンを連れていくか決まったかい?」
「はい、考える時間だけは沢山ありましたから、もう決まってます」

ナツは左端のモンスターボールを手にした。

「キモリか、君の事だから、アチャモあたりを選ぶかと思ってたよ」

意外そうにヤクモ博士が言う。

「確かに、炎タイプは種類も少ないし、技も派手で威力も高い、それに進化すれば格闘タイプも加わるアチャモは魅力的です。でも…」
「でも?」

ナツは少しバツが悪そうに頭をかく。

「実はこの前、つい待ちきれなくて3匹の様子をこっそり見ちゃったんです。その時に、俺のパートナーは絶対コイツしかいないって、タイプとかポケモンの種類とかじゃなくて、コイツじゃなきゃ意味無いって…」
「君の、最強の直感かい?」

ナツは力強くうなずいた。彼の勘はまるで予知能力があるのかと思うほどよく当たる。

「じゃあ、早速手続きを」
「その前に1つだけいいですか?」

旅立つには様々な手続きが必要になる。例えば、身分証明でこの先最も重要視されるポケモン図鑑の授与日と使用者の登録がそうである。全国ポケモン連盟(通称・全ポケ連)にその情報を登録しなければ、図鑑は身分証明の役割を果たさない。ナツにはそんな重要な手続きを後回しにしてでも確かめたい事があった。
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