オリキャラの話

□救済―後篇―
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「にぎゃああああああああああああああああああ!!!!」

その顔を見るなり、ナツは壮絶な叫び声を上げベッドから転げ落ちた。
角付きの赤いフード、紫色の髪と瞳、忘れたくても忘れられるはずもない初日の悪夢(あの顔)が、そこにあったからだ。

「人の顔を見るなり奇声を上げるとは、いい度胸だな…」

紫髪の男性は眉間にシワを寄せ鋭い眼光を向けてくる。ナツは恐怖のあまり一緒に落ちたシーツを掴み震えている。

「こらこら、怖がらせてどうする」

その後ろから現れた人物に、更に驚かされる。

「え?マ、マツブサさん?!どうしt…えぇ??」

何故この人があの怖い人と一緒に視界に映っているのか、そしてここは何処なのか。自分の置かれる状況が全く理解できず、混乱のあまり掴んだシーツを被ったり意味もなく両手を上下に振ったり、謎の動きを繰り返す。

「大丈夫、ここは安全だ、何せ私の創設したマグマ団の基地だからね」

私の…創設した?言葉を発そうにも驚きで声が出ない。マツブサとホムラはナツのそばまで歩を進めた。

「実はね、私はマグマ団のリーダーなのだよ、そしてこの男はホムラといって、私の右腕であり行動隊長を任せている優秀な部下だ」

マツブサはナツの視線に合わせるようにしゃがんで話しかける。
傍らのホムラはまんざらでもなさそうな様子だが、眉間のしわは消えていない。

マグマ団―――以前あのアクア団と共にホウエンで暗躍する悪の組織だと報道されていた赤装束の集団。自身も目の前のホムラという男に痛い目に遭わされたが、その組織のトップが本当にマツブサであるならば、世間一般の言う『悪の組織』というレッテルを貼り付けられる様な集団ではないはずだ。湧き上がる疑問にナツの頭は混乱を極めた。

「君と別れた後、心配した彼がヘリで私を迎えに来てね、そこへ君のキモリが助けを求めにきて、流砂の中で気を失っている君を何とか引きずり出し基地の救護室へ運んできた、というのが今君がここに居る経緯だよ」

マツブサはナツの分かり易過ぎる錯乱っぷりに笑いをこらえながら、丁寧に今に至るまでの経緯と現状を説明する。

ああ、そうだ。自分の勝手な思い込みや偏見で、物事の本質を知る事もなく考えを押しつけてくる、『セケンイッパンノニンゲン』なんかの妄言を鵜呑みにしようなんて、情けないにも程がある。実際、ちょっと知りあった程度の、いや一度は任務の邪魔をしてしまった自分を、わざわざ助けて手当てまでしたくれた彼らが、単なる悪党のはずがない。

「…そうか、そう…なんだ」

嬉しいやら悲しいやら複雑な心境のまま下を見つめ、ぽつりとつぶやく。状況を把握して落ち着いた半面、その目はまるで澱んだ水底のように曇っていた。
ハッとして一番初めに言わなければならなかった言葉を口にする。

「あ、あの、ありがとうございます!助けて頂いて、その…どうお礼すればいいのか」
「君には先に二度も助けられている、礼など必要ないよ」

マツブサはスッと立ち上がり、笑って手を差し伸べた。すみません、と言ってナツはその手につかまり、立ち上がる。
ふと、いつもより視界が鮮明な事に気付く。ナツは辺りを見回しソレを探した。

「どうかしたかね?」
「あの…眼鏡は…?」

ナツはおずおずと尋ねた。

「すまない、君の眼鏡は救出する際に砂に飲まれてしまったんだ」

必要なら代わりの物を用意しよう、とマツブサは付け加える。

「…別にいいです、どうせ度入りじゃありませんから」
「伊達だったのか、しかし何故そんなものを?」

ナツがかけていたのは何の変哲もない、かなり年季の入った分厚いガラスの黒縁眼鏡で、お世辞にもファッションとしてかけていたとは到底思えない物だった。

「…昔、言われたんですよ、その目、血の色みたいで怖いって…それから人前では必ず付けるようにしてたんですよね…」

気持ち悪い、と言われた事もあったかな。ナツは少し曇った表情で、笑いながら鼻の頭を掻いた。昔から自分でもこの赤黒い色の瞳は好きではなかった。
それに、前に読んだ古文書の中に「赤い目を持つ者は不幸を呼び寄せる」なんて書いてあった。まさに自分の事じゃないか、そう思った。

「そうか…私の目には、君の瞳が最高級の宝石のように美しく映るのだがね」
「え?」

至極、驚いた。今までそんな事、一度も言われた事が無かったから。

「十人十色、感じ方など人それぞれだ、そんなに気に病む事はない…どうしたんだ?そんな顔をして」
「…な、なんでも、ありません…」

苦しんでいるような、戸惑っているような微妙な表情。普段ならうまくやり過ごせるのに…たかがレンズ1枚無いだけでこうも心情を隠せないとは、情けない。
このままでは、今まで隠し守り抜いてきたものが全て無駄になってしまうような気がして怖かった。
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