オリキャラの話
□虚偽
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ビルから大分離れた所で、ようやく歩を緩める。本当は、まだ船の時間には余裕があった。極度の緊張から逃れたい一心で嘘をついた事に後悔の溜息を漏らしながら、バッグからポケナビを取り出す。タウンマップを開き、船着き場やその周辺を確認する。
(途中にフレンドリィショップがあるな…少し道具なんか買いこんどくか)
あまり気乗りはしないが、何もしないよりはマシ。ナツは少し重く感じる足取りでフレンドリィショップへ向かった。回復系の道具や
食料を買い終え、船着き場に着いたナツは次の目的地であるムロタウン行きのチケットを買い、船に乗り込んだ。
割り当てられた船室に入ると、ナツはキトとオウヒをモンスターボールから出した。
「悪いな、あれからずっとボールん中で」
『別に謝る事ないよ、ね、オウヒ』
『ああ、多少窮屈だがそんなに居心地は悪くない』
申し訳なさそうなナツにキトとオウヒは笑顔で答える。そうか!と、ナツも安心して微笑む。
「次はムロか…また新しい仲間に出会えるといいな」
窓の外に広がる海を眺めながら話す。
『うん、…ところでナツ、どうしてあんな事言ったの?』
「あんな事?」
『人前では話しかけるなって』
「ああ、それか」
ナツは少し遠くを見つめ、静かに言った。
「普通の人間ってのは、ポケモンの言葉も気持ちも完全に理解することはできないし、会話をしたりも当然出来ないモンなんだよ」
『うん、それは何となくわかるよ』
他の人間とは会話など一切出来なかったのに、ナツだけは自分の言葉を理解してくれた。それは運命の相手だからだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
『では、それが出来るナツは普通じゃない、という事になるぞ』
オウヒが疑問を投げかける。
「そう、前にも言ったけど、俺は普通じゃない」
ナツはそっと目を閉じ、幼少の頃の記憶を蘇らせる。
あれは、小学校に入る為に大きな町へ引っ越す前の事だったか。それまで俺達は人里離れた森の奥に住んでいて、他人とはほとんど
接点がなく、俺の遊び相手はもっぱら近くに住むポケモン達だった。
「お前はどうやらお父さんに似てしまったようだな」
そう言って父さんは少し困ったように俺の頭を大きな手で撫でてくれた。
「いいかい?お前がポケモンとお話ができるって事は誰にも言ってはいけないよ」
「どぉして?」
俺は小首を傾げて尋ねた。
「普通の人はね、ポケモンとお話は出来ないんだよ」
「そーなの?」
「ああ、それにお前ほど早く走れないし高くも跳べない」
「ふぅーん」
それが普通だった俺にとって、その真実は理解し難いものだった。
「学校ではなるべく周りの人に合わせるんだよ、でないとお友達も出来ないしヘタをすればお父さんやお母さんと一緒に居られなくなってしまう」
「そんなのイヤ!!」
俺は全力で顔を横に振った。
「お父さんもお母さんも同じだよ」
父さんは俺を引き寄せて抱きしめた。
「ちょっと大変だけど、できるかな?」
「うん、だいじょうぶ!!」
あの日の俺は笑って頷いた。
それからずっと、どんなに辛くても自分が‐トクベツ‐な存在である事をひた隠し、父さんの言いつけを守ってきた。
ナツはゆっくりと目を開け、話し出した。
「人は自分と違うもの、理解し難いもの、普通じゃないものを嫌い排除しようとする、でも人間として生まれてしまった以上人の輪の中に入らなければならない事も多い。だから、せめて人前では普通を演じなきゃいけないんだ」
『それって大変じゃない?』
「もう慣れたよ」
キトの問いに、ナツはうっすらと諦めたような笑みを浮かべた。
「…やっぱり、俺みたいな、普通じゃない奴の仲間なんて嫌か?」
ナツは少し悲しそうな笑顔で問う。
『ううん、そんなことないよ!むしろ僕はナツとこうやって話ができてすごくうれしい!』
キトは満面の笑みで力強く答える。俺もだ、とオウヒも頷く。
「…ありがとう」
ナツは照れくさそうに少し俯いた。
(そう言えば、フユ(アイツ)もシザリガーと会話が成立していたな…)
オウヒは昨日の事を思い出した。だが、それを口にする事はなかった。次の目的地の地図を見ながら何処に行こうか、何をしようかと楽しそうに話す2人、特にナツにこれ以上ストレスを与えるような事はしたくなかった。
「なぁ、オウヒ!って、どうした?難しいカオして」
『…ああ、何でもない』
名を呼ばれ、オウヒも話に参加した。3人を乗せた船は汽笛を上げ、海をゆっくりと進みだした。