頂き文

□学パロ 前途遼遠な初恋 豊三+直(采配)
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穏やかな空気が漂う朝。

春風に乗って桜の花弁がヒラヒラと舞う中、 俺は真新しい制服に身を包み高校への道のり をのんびりと歩いていた。

『今日から俺も高校生かぁ……そう言えば高 校って部活動強制だっけ?だとしたら俺、何 に入れば良いのかなぁ』

受験の時から楽しみにしていた高校生活だ が、ふとある事が気になり気分が少し落ち込 む。

受験や勉強よりも俺を悩ませるもの、それは 部活動。

自慢じゃないけど俺は運動音痴な上に体力が 無い。

俺に言わせれば運動部なんて拷問部と言って も過言ではない。

かと言って文化部も見方を変えれば運動部と 同じだ。

合唱部や吹奏楽部なんかは肺活量や腹筋、背 筋を鍛える為のトレーニング等をしなければ ならないし。

美術部や漫研は正直言って美的センス皆無だ し……。

「あー…一番は三年間生徒会役員に所属して 部活はパスしたい所なんだけ……ど わっ!?」
「………ッ!?」

頭の中が部活動の事で一杯になりながら歩い ていた時だった。

ドンッ!という音がしたと同時に何やら目の 前の障害物にぶつかり、その衝撃で後ろに倒 れ尻餅をついてしまった。

「いったたぁ…何なんだよもぉ。一生懸命考 え事してたのにぃ」

うぅ……新学期早々ツイてない。

尻餅をついたお陰でお尻が痛くて、なかなか 起き上がれない。

新品の制服を早速汚してしまった……はぁ、 きっと左近とたま怒るよなぁ。

そんな事を考えていると急に上の方が陰り何 だろうと思ったその時、頭上から低くて凛と した声が降ってきた。

「ほう。それはまた、朝から大変な事をな さっていますね……人の背中にぶつかってお きながら」 「えっ!?」

バッと顔を上げると其処には褐色の肌とそれ に見合うようなガッシリとした体格の良い高 校生が、竹刀の入った袋を肩に掛け此方を見 下ろしていた。

だ、誰だろう……何だか怖い。

同じ制服を着ているから学校は同じ筈。

でも高校生にしては眼光鋭く大人びていて、 纏う雰囲気も何処となくピリピリとした威圧 感がある。

目の前の男子校生に内心怯えていると、突然 スッと手が伸びてきた。

まずい、殴られる!

そう思った俺は咄嗟に目を瞑り来る衝撃と痛 みに堪えようとするが……。

「ほら、私の手に掴まって…自力で起てます か?」
「ふえ?!あ……はい、有難うございま すっ」

てっきり殴られると思っていたのに……。

わざわざ俺を起こしてくれた高校生に何だか 悪い事をした気分だ。

彼の大きな手を握りやっと起き上がると、彼 は満足したように踵を返し行こうとする。

「あ、ちょっと待って下さいっ!!」
「……まだ私に何か?」

呼び止めると彼は眉間に皺を寄せ鬱陶しそう な顔で此方に振り返った。

う、やっぱり怖い。

鋭い視線に一瞬、怯んでしまうがどうしても 言いたい事があるので勇気を振り絞って彼に 言い放った。

「あ、あの!さっきはぶつかって、ごめんな さいっ!俺、考え事していると周りが見えな くなって……」

ぺこっと頭を下げ先程ぶつかった事を詫び る。

すると下げていた頭に先程の大きくて温かい 掌が乗せられ、クシャクシャと撫で繰り回さ れた。

「ふん…今度からは気を付けて下さい。それ と…折角の新しいズボンが埃で汚れています よ」

見た目とは裏腹の優しい声と行動。

彼は徐に俺の頭を撫でていた手を離し、埃ま みれのズボンを叩き丁寧に汚れを落としてく れようとするも………。

「ひゃあぁんっ!」
「!!!??」

パンパンとお尻を数回軽く叩かれた時、俺は ついに我慢が出来ず声を漏らしてしまった。

突然の事に彼は手を離し数歩後ろに下がった 後、驚いた様子で此方を見つめる。

何とか弁明しようと顔を上げた瞬間彼と目が 合い、お互い顔を赤らめ固まってしまった。

「あ…あのっ……」
「す、すみません…私は只ズボンに付いた汚 れを……ッ!!」
「あ、待って!違うんですっ!俺、お尻が ウィークポイントで!!………行っちゃっ た」

名前、聞いてないのに。

首筋まで真っ赤に染まった彼はこの場から逃 げるように走り出し行ってしまった。

「……また会えるかな?」

同じ高校だし、きっと校内で会えるだろう。

次に会った時はお礼とお詫びと自己紹介… 後、友達になってくれるか聞いてみよう!

あんな格好良い人と友達になれたら俺の高校 生活は薔薇色間違い無しっ!!

ん?……何で薔薇色なんだ??

楽しいの間違いじゃないのか?

……………。

ま、良いか!細かい事は気にしないっ!!

そう簡単に結論付けた俺は意気揚々と高校までの道のりを歩いて行った―――。
 
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