title◇tennis

□視線
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―――キーンコーンカーンコーン…


『うっ…あー!終わったー!』

6時間目の授業が終わって
うちは思い切り伸びをした。
頑張り過ぎてもない腕をぐるぐる回して
席を立とうとしたら、
不意に後ろの方から視線を感じた。

ゆっくり振り返ってみると、
そこには珍しく千歳がおった。
そんな千歳に軽く手を挙げたら
頬杖を付きながら
軽く手を挙げてくれた。
それが嬉しくて千歳に近付こうとしたら、
千歳はうちをしっしと手で払ってきた。


『…は、』

何やねん…久々に絡みたかったんに。
もうええわ、席に座っとこ。


何となく、動く気が失せて
うちは帰りの用意もせずに
机に顔を伏せた。
すると、後ろから小さく笑い声が
聞こえた気がした。
さっと振り返ると、千歳がうちを見ながら
口に手を当てて笑っとった。


『な…何やねん、千歳っ』

何も言わんと笑う千歳にイラッときて、
うちは千歳の席まで行った。
そしたら、また手でしっしとしてきた。
うちはアホやわ、それ見て席に戻った。

ほんまに、好きな人には弱なんねん。


席に着いてちょっとしてから
うちはまた千歳の方を振り返った。
…ら、千歳は長い腕を伸ばしながら
大きく伸びをしとった。
そんで、腕をぐるぐる回して
また頬杖を付いて、うちを見た。


あれ?どっかで見たような…
っちゅーか、うちがやっとったような……


『……あ!』

千歳はうちのマネをしとったことに
気が付いた。

さっきから何がしたいんか謎!


『何やねん、千歳っ!』

うちが自分の席からそう叫ぶと
千歳ははにかみながら
口パクでなんか言っとった。


『…?』

目を細めてそれを
読み取ろうと励んだ。


"む"

"ぞ"

"ら"

"し"

"か"


千歳の口は確かにそう動いた。

何やねん、"むぞらしか"て。


『何やねーん、呪文?』

うちがそう聞いたら
千歳はにこっと微笑んで
「呪文たい」と答えた。

そんな千歳の顔が可愛くて、
つい頬が緩んだ。




(呪文の意味、教えてや!)
(呪文ばってん、教えることはできんっちゃ)
(あ〜?ケチやな…ほな、考えるわ)
(素直なとこも、むぞらしかよ)(…は?)




end◇◇
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