title◇tennis

□無謀と知っても、
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先輩が好きやった。
たとえ、先輩が俺とちゃう人を見とっても。




…放課後の部活中

久々に先輩らが顔を出した。
部長と謙也さんとユウジ先輩と小春先輩…
師範はおらへんだけど
だいたいの先輩らは来とった。


謙也さんが「打とう」とか言ってきたけど
俺は謙也さんを軽くあしらって
部長に声を掛けた。


「部長、久々に俺と打ってくださいよ」

「あー悪いな財前、俺は久々に部長しにきたんや」

「は?関係ありませんやん」

「オサムちゃんおらへんで、今は部長兼監督や」

俺は部長を真顔で見てから
ずっと俺の名前を叫んどる
謙也さんのとこに行って
しゃーなし、打ったることにした。


「財前、鈍ってないか確かめたるわ!」

「そっくりそんままアンタに返しますわ」

「何やと!生意気やな!」

謙也さんのテンションに付いてけやんまま
軽く打ち合いを始めた。

打っとる間、コート脇のベンチ付近を
そわそわうろついとる部長が
目に入ってきとった。
何や怪しかったけど、別に聞きもせんだ。



――…
―――…


『蔵〜!』

…打ち始めて数分後、
部長を呼ぶ声がコート内に響いた。
すると、部長はめっちゃ嬉しそうな顔で
呼ばれた人んとこまで駆け寄っとった。

部長を目で追っとったら
ええとこまで行って立ち止まった。
流れて女の顔を見た。
それと同時に、
俺は胸がぎゅっと苦しくなった。

女を顔で決める訳やない。
ましてや、適当に決める訳あらへん。
やのに、やのに……
俺はその人を見ただけでドキドキした。

ふわふわした笑顔を部長に向けて
頬を赤く染めて話しとった。
部長も部長でめっちゃ嬉しそうやった。


その人を見て気付いた、
俺は一瞬で好きになったことを。
その二人を見て気付いた、
俺の気持ちを伝えるんは無謀やと。


「ちょ…部室行きますわ」

「どないしたんや、財前?ざいっ…」

俺は謙也さんの言葉を最後まで聞かず
部室に駆け込んだ。


部室に着くなり、溢れる涙を拭いつづけた。
胸が張り裂けそうなぐらい痛かった。

見ただけで好きになったことにも、
泣く自分も、アホとしか思えやんかった。
それでも、あの人を想う気持ちは
薄れることを知らんだ。

どんだけ無謀と知っても、好きやった。




end◇◇
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