捧げ物
□世界で一番くだらない
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ゲームを一向に止めない仁王を見ながら、もう次の授業には間に合わないな、と思った。
そんなことを考えてるうちに、チャイムは鳴ってしまった。
「(てかこいつ、いつまでゲームしてる気だよ。)」
自分達以外誰もいない屋上を見渡しながらため息をつく。
「(…てことは今、ふたりっきりじゃん。)」
ふとそんなことを思った瞬間、俺の心臓が大きく脈打つ。
「(これって、チャンス…なのかな?)」
告白とか、そんな女みたいなことしたくないって思ってたけど。
でも、今逃したら、きっとこれからも、俺は仁王に気持ちを伝えないんじゃないかなとも思う。
…だったら。
どくどくと心臓が鳴ってる。
「(緊張してきた。やばい手汗かきそう。)」
ぐっと手を強く握って、深呼吸をする。
そして隣にいる仁王のほうを向いた。
「…あのさ、仁王…話あんだけど…。」
「俺もある。」
「へ?」
「…俺、丸井のこと好きなんじゃけど。」
「…はい?」
「言っとるじゃろ。俺は、丸井が好き。」
そうゲーム機の画面を見ながら仁王が言う。
いきなりの出来事に、頭がついていかない。
……は?ちょっと待て待て;
俺今仁王に告ろうとしたんだよな…?
で、俺が仁王話しかけて、あれ?どうなってんの?
「え…だって俺、今仁王に告ろうとしてたんだけど…。」
「あー、それはわかってた。でも、俺ずっと気持ち伝えるのは俺からって決めてたんよ。自分から丸井に好きって伝えたかった。」
仁王はゲームをセーブして、電源を切った。
そして、俺のほうを向いてまた話始める。
「丸井も俺のこと好きって気づいとったし。んでさっき告られるかもって思って。だけど、伝えるんだったら俺が先にって思っとったから。」
少し照れたように仁王が笑う。
ああ、この顔、すごく好きなんだ。
え、じゃあ何?
俺らって両思い?
「…そんなの、ずるいっつーの。」
「ん?」
「俺が、せっかく決心して、気持ち伝えようとしてたんだぜ!?なのに…!」
嬉しいのに、なんか腑に落ちない。
「だって俺のが絶対丸井のこと好きじゃもん。だから俺が伝えた。」
「は、何言っちゃっってんの?俺のが仁王のこと好きだし!」
「ほう、そうかのう。自身あるんか?」
「ある!じゃなきゃこの俺が告白なんてことしようとするわけないだろぃ!」
「じゃあ、勝負してみる?どっちのほうが相手を好きかどうか。」
「どうやって…。」
「どっちが先に相手にキスできるか、どうじゃ?」
「キ、キス?」
「そう、先に相手にキスした方が、相手を想う気持ちが強いってことで。」
ニヤッと仁王が笑う。
「や、やってやろうじゃん!」
「じゃあ、今からスタート。」
「え、今から…。」
スタートと仁王が言った瞬間、いきなり腕を仁王につかまれた。
引き寄せられて、唇に暖かい、柔らかい感触をしたものが触れる。
キス、されてしまった。
勝負を始めてから、ほんの数秒しか経ってないのに。
唇を離して、仁王と目が合う。
「俺の勝ちじゃよ、ブン太。」
「…っ、仁王のばーか!」
いきなりキスしてくるし、ブン太って俺の名前、初めて呼んだし…。
嬉しすぎるじゃん。
「俺のほうがブンちゃんだーいすきじゃ!」
「俺のが好きだし!次は絶対俺からキスするもんね!」
「ほんと?じゃあ楽しみにしてるぜよ、ブーンちゃん。」
結局はまあ両思い?
ハッピーエンドってことで。
世界で一番くだらない
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