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□振り向かないで
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嫉妬深い奴は嫌い。
たばこ吸ってる奴も。
ついでに言うと、さらさら髪の奴も。
でもやっぱり、嘘吐きが一番嫌い。





り向かないで





大切なものなんていらないと思っていた。
つい、この間まではそう思って、誰も近づかせなかった。
誰でも上辺だけの関係で保っていた。
これからだって、そのはずだったんだ。



土方十四朗。
こいつが俺の日常を壊した。



「坂田」

「げ、土方」



最初は、体だけの関係のつもりだった。
あいつだってそうだったんだと思う。
欲が溜まればあいつに会って吐き出して、あいつも同じだと思っていた。



「好きだ、」

「は?」

「好きだ、坂田」

「ま、さか。冗談だろ?」



動揺して視線が揺れた。
土方の顔が見れない。
見てしまったら何かが終わる気がした。



そんな俺の気持ちも知ってか知らずか、土方は俺の頬を両手で包んで、前を向かせた。
そこには、真剣な目をした土方がいた。



その日から土方は俺に愛をささやく。
「好きだ」「愛してる」そんなぽろぽろと、なぜ言葉が出るのだろう。



余計に土方が信じられなくて、俺はあからさまに土方を避けた。
道で会っても逃げるか、無視。
それが一番良いと思っていたから。



本物の愛なんていらない。
それを手に入れた瞬間人間は手に入れられた喜びで愛を無くす。
そして、離れてから気づくんだ。
「こんなにも、愛していた」と。



俺は、もうそんな思いしたくない。
過去は振り切ったつもりだ。
俺は今を生きている。
それでもたまに、思い出すあいつの笑顔体温仕草。
目をつむれば声が聞こえてきそうで、眠れない夜もあった。



俺は捨てられた。高杉に。
「銀時が離れていきそうで怖い」と、臆病に愛してくれた高杉に、俺は捨てられたんだ。
高杉に依存して、離れることをどんなにも怖がった俺を知ってて、あいつは俺を捨てたのだろうか。



しかし、高杉がいない生活を2年も過ごしてしまった今となっては、高杉がいない生活が当たり前になっている。



俺は、失うことが怖くて何も求めることができなくなっていた。



その日は、たまたま長谷川さんと飲んでいてとても気分が良かった。
随分飲んだのか、自分では分からない。
頭がほわほわして、呂律が回らない、自分を見失いそうになった。



でも、もし自分を見失ったら、あの残酷な過去を忘れられるのだろうか。
過去は忘れたつもりでも、やっぱり俺はまだ高杉に依存してる。



「長谷川さーん、もう一軒行きますかぁ?」

「何言ってんの、銀さん。もう、帰るよ。」

「やだぁぁ!俺はまだ飲めるぞコノヤロー!!」



そう叫ぶ俺を、長谷川さんは肩に担いで、家までつれてってくれた。
たまにこういう優しさが余りにも暖かすぎて、涙が出そうになる。
この暖かさを求めてしまいそうで、怖くなる。



俺は、どこまでも臆病だった。



もう少しで家が見えてくるというところで、俺は家の前に誰かが立って居たのを見つけた。
今日、あいつ等は新八の家に行ったからこんな時間には居ないはず。



そいつの着ている洋服を見て、俺は言葉を失った。
そして言った。



「土方…………」





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