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□心臓
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俺には好きな人がいる。小学校の頃からずっと一緒で、俺より背は小さいけど広い背中を持った優しい奴。
高杉晋介。
心蔵
「高杉、また女抱いてきたの?」
「あ?」
女の香水の匂いを付けて、俺の部屋にやってきた、高杉。
まるで俺の部屋にその匂いを付けるかのように。
「お前には関係ねぇ、」
「そうだけど…」
「そうだけど、なんだよ?」
こいつは気づいている。
俺が高杉を好きなことくらい。
それもずっとずっと前から、気づいてて高杉は俺を傷つける。
まるで俺に見えない傷を付けるみたいに。
そっちはからかいのつもりでもこっちは大火傷何だよ、コノヤロー
一人心中で呟きながら、俺は高杉を見た。
すると、こいつはにやけて俺を見る。
この顔がこの笑顔が好きなんだ、俺は。
「め、迷惑なんだよ。毎回毎回俺の部屋に香水の匂いまき散らしやがってさ、夜眠れやしないんだよ、コノヤロー」
「そりゃあ、いいじゃねぇか。そうやってお前は俺を思い出すんだろう?銀時。」
「たちわるい奴」
「そりゃあ、お前もだ」
そう言うと俺を自分に引き寄せて、俺を抱きしめた。
微かだけど、女物の香水に混じって高杉の匂いがする。
たばこの匂いだ。
こうやってしつこい香水の中から高杉の匂いを探すのも、悪くないと思ってしまう。
背中に回された高杉の手が、高杉が触れてる全てから温もりを感じて、暖かくて、安らぐ。
こんな関係でも良いと思ってしまう俺は、高杉よりもたちが悪い。
「銀時」
「ん?」
俺が答えて、高杉を見れば高杉からのキスが下りてくる。
おそらく女物のリップであろう、イチゴの味がとても胸を締め付けた。
きっとイチゴが好物なのがなおさら。
それでも高杉を求めて、唇を離すことはしなかった。
「ん、はぁ」
ゆっくり俺の口内に舌を進入した高杉はまるで味わうかのように俺の口内をかき乱す。
「た、かすぎ、くる、し」
俺が体を叩こうが、泣こうがこいつは止めようとはしない。
でもこれは、いつものこと。
こいつは自分が全てで自分中心に生きている。
だからきっと、セフレの女の子も、友達も、親も、小学生からの付き合いの俺でさえ見向きもしない。
でもたまに、俺だけに見せる無邪気な笑顔だけは俺だけの物。
俺だけの特権。
だから俺はつくづくこいつに甘い。
「ぷ、は。苦し、い。ばかちび杉」
「ちびは余計なんだよ。次言って見ろ、慣らさずにぶち込むぞ」
「あー怖い怖い」
「そのうちてめぇなんか越えてやるよ」
あ、笑った。そうこの笑顔。
この笑顔のために俺はお前といるんだ。
「あ、やべ。俺約束あるんだわぁ、じゃあ、銀時」
「また、女?」
「ついてくるか?」
そう言って楽しそうに笑う高杉がどこか遠くへ行ってしまいそうで。
本当は「行かないで」って言いたいけど、言ったところで何も変わらない。
高杉との今の関係を保つためには、言えない。そのためなら俺は、きっとなんだって出来てしまう。
「また、来る」
そう言って俺の家を去った高杉。
ただ俺は、高杉の背中を、見ることしかできない。
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