Oh,my girl!BOOK
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静雄が帰ってきて、3人はいつも通りに食卓を囲む。
暗黙の名無しさんルールにより、臨也と静雄は食事中は喧嘩を控え、自分から話すタイプではない名無しさんと普段は静かな静雄の間で臨也が1人ベラベラとしゃべり続けていた。
そんな臨也の言葉一つ一つにこめかみの血管をひくつかせる静雄を挑発するように話し続ける臨也。
決して和やかな光景ではないが、名無しさんは最近ではこんな夕食の席を楽しむようになっていた。
「じゃあ俺はシャワー浴びるから、先にベッドで待っててハニー」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!浴槽に沈められてぇか!」
「はははっ、こわいこわーい」
静雄の振り上げられた拳を慣れた動きで軽く避け、臨也はバスルームへと足取り軽く消えていった。
「…ったく」
はぁ、と大きくため息を吐く静雄を横目に名無しさんは空になった食器を片付け始めた。
3人での共同生活をはじめてわかったのは、兄が思っていたより臨也のことを嫌っていたわけではないということ。
臨也が善人らしさは欠片もないが完全な悪人ではないように、
静雄は臨也を好きになる要素は一つもないが、殺したいほど憎んでいるわけではなく、嫌いなことに変わりはないのだが、そこは腐れ縁ということで諦めている節があるのかもしれない。
「お前は、あんな奴のどこがいんだよ」
頭をガシガシ掻きながらぶっきらぼうに言う兄の言葉にやっぱり自分は臨也の事が好きなのか、と思う。
自分の感情はいつも自分より先に兄が見つけて、兄は妹が自分で気付くまで黙っていようと思うのだが、そんな器用なことをこなせる兄ではなく、妹はいつも兄の言葉とそれに納得する自分に驚く。
『お兄ちゃんはすごいね』
予想していたものとは違う反応が返ってきたことに静雄は黙って名無しさんの顔を見返す。
『私、お兄ちゃんのこと大好き』
「はッ!?…な、何だよ急に…」
妹の言葉に耳を赤くする兄。
こんな歳になっても何の恥ずかしげもなくそんな言葉を口にする素直な妹は、傍にいればいるほど兄にとって大切な存在になっていく。
俺が、守ってやんなきゃな。
そう思いながら食べおわった食器を片付けようとする名無しさんの手から空になった食器を奪い、たまには自分がやると名無しさんに座っているよう促した。
しばらく経って片付けも終わった静雄が名無しさんの隣に腰を掛けようとしたその時、
ガターン、
臨也がいるはずのバスルームからの突然の物音に名無しさんと静雄は一瞬動きを静止した。
『…どうかしたのかな?』
「ほっとけ。風呂場で滑ってこけたんじゃねぇか」
気にした様子のない静雄はそのままソファーに座り込んだ。
『…ちょっと見てくる』
普段ならこんな物音程度で心配したりしないのだが、さっきの夕食に混ぜた薬のことが引っ掛かり、名無しさんは兄の制止を振り切ってバスルームへ駆け出した。
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