メゾン・ド・ソレイユBOOK

□知
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『おはよう静雄』


――翌朝、

俺はあのノミ蟲野郎をすぐにでもぶちのめす為に、アパートの出口のすぐ横で待ち伏せをしていた。




「おう」

いつまで経っても出てくる気配のない奴のせいで、俺は苛立ちの絶頂にいて、近くにあった標識をひん曲げてしまったところだった。



でも、…何でだろうな。

なんかコイツの顔見たら苛立ちが治まっちまった。





『何してんの?』


いつものようにだらしなく制服を着た名無子はくあっと欠伸を一つ。


「臨也を待ってんだよ」


ぶん殴る為にな、と心の中で付け加えて、俺は何でアイツをぶん殴ることになったかを思い出した。


別にアイツに怪物呼ばわりされようが、屁理屈並べ立てられようが、痛くも痒くもねぇ。…むかつきはするが。

何が嫌かって、たぶんそれは…アレなんだよな。

そう、アレ。アレっつうか、コレ。コイツ。コイツの“せい”と言うか、“ため”と言うか…





『静雄?』


「あ、悪りぃ、別に何でもねぇんだが」


俺は名無子のことを考えながらついついその顔をジーッと見つめてしまっていたらしい。

ふと我に返ってそのことに気付いた俺は、カーッと顔が熱くなる。そんな俺から目を外そうとしない名無子の視線に更に顔が熱っぽくなる。




『静雄、臨也ならさっき裏口から出ていったよ』


「あ?」


あんのノミ蟲野郎、いつの間に出て行きやがった!?

「クソッ!いー、ざー、やーッ!!」



火照った顔から頭へと一気に血が上った俺は、名無子を置き去りにして奴の名前を叫びながら学校まで猛進したのだった。











「ありがとう名無子、助かったよ」


その直後に臨也がすぐそこの塀の陰から姿を現したことなんて、俺の知る由もないことだった。



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