艶やかな秘めごと

□抱きしめた君は
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薫殿の出稽古に付き添い、道場について行く。
優も実は赤べこで働いていて、いやはや凄いでござるな。

「剣心、何やってるの?」

「薫殿の出稽古の付き添いでござるよ。」

前川道場に向かう途中、仕事の帰りであろう優と会った。

「あ、本当だ、薫ちゃんがあんなとこに。」

前を歩いていた薫殿が振り返り、手を振っている。

「優ー!」

「薫ちゃん!私もついて行っていい?」

「いいけど、暇じゃない?」

「ううん、見てるの好きだから。」

「そう?じゃ、一緒に行きましょ。」


仲がいいでござるな。
良いことでござる。
優も薫殿も皆に好かれて、人が良いから悪い輩に騙されないか心配でござるよ。


「それでね、剣心が…―」

「あははっ!やだーっ。」

「でしょ?しかもねー?」


おろ…?今拙者の名前が聞こえたような気が…


「剣心が?ふふっ、子供みたいね。」

「確かもうすぐ29だよね?なのにあれだから吃驚しちゃった。」

気のせいではない…
拙者の話でござる。
こんなに離れていなければどんな内容か聞こえるのだが…

はっ!まさか離れてるから拙者の話を?!

それにしてもどんな…

少し聞こえた話からするともしかして拙者の恥ずかしい話でござろうか…

「今度あったら薫ちゃんにも教えるね!」

「うん、あ、ついたわ。それじゃああそこで待っててね。」

「はーい、頑張って!」






結局内容がわからないまま稽古が始まり、優は真剣に見ている。

ま、笑っていたから内容はもういいのでござるが…。


「ありがとうございました!!」

「おろ、終わったようでござるな。」

「みたいだね。座ってるだけなのに汗かいちゃった…先に外出てるね。」

「わかったでござる。」


確かに熱気で暑い。
汗を掻くのも仕方ない。



「あら、優は?」

「先に外に行っているでござるよ。」

「待っててくれたんだ、ありがとう。」

「さ、行こう。」

「うん。」


薫殿と門を潜ると、前川道場の門下生と優が話をしていた。

む、馴れ馴れしいでござる、あのような下心丸出しの顔で…

しかも優は全く気付いていない。


「剣心、優は任せたわよ、私は買い物があるから先に行くわ。優に怪我させたら承知しないからね。」

「勿論、傷などつけさせぬよ。」


薫殿と別れ、とりあえず様子を見てみる。
もしかすると用があって話をしているかも知れない。


(一体どんな話を…)


「私は薫ちゃんみたいに出来るわけじゃないんですよー。」

「そうなんですか?とても真剣に見ておられたから…」

「見てただけなんです、腕前は全然!」

え…?
いや…お主薫殿と張り合う程の力をもっているではござらんか!


と、まぁ少しだけ聞こえた会話に、安心したのも束の間…


「それで、明日俺稽古早く終わるんです。よかったら…ご飯一緒に食べに行きませんか?」



やはり…
それが狙いか。



「あ…ごめんなさ」
「すまぬが、拙者が先でござる故、お主とは行けぬでござるよ。」

これ以上優の笑顔をこいつに見せる訳にはいかない。

「剣心!」

「え?優さんのお知り合いですか?」

ぴくっ…

「優、さん?お主、何故優の名を…」

何故下の名を…
優は自分の名前を誰かに伝える時必ず名字も言う。

なのに…


「友人ですから名前で呼んでも不思議ではないでしょう?」

「剣心…ムキにならなくていいから…あーっと…ごめんなさい、私恋人いるから…」

おろ…
なんか呆れたように指を刺されたのだが…
人を指さしてはいかんでござるよ。

というか呆れながら恋人を紹介などと初めて見たでござる。


「こ、いびと…?」

「はい。」

「俺よりチビだし、赤毛で、華奢で白くて…女みたいな…奴が…?」

「おろ…っ?!どいつもこいつも…」

それしか言うことがないのでござるか?!

「あ、はは…ま…まぁ…好きな人ですから。」

「そうですか…」


さっさと帰れ、でござるよ。
全く…口を開けばチビチビと、これでも気にしているのにっ…!


「さ、帰ろう、優。」

「うん!」



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