過去もまた、ゆらりと甘く

□雨音が奏でる特別な、
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雨音が紡ぐ、特別な日





「おろ、雨が…今日は洗濯が出来ないでござるな。」

小雨が葉や木に降りかかり涼しげな音が響く。

仕方ない、明日にまとめて洗濯しよう。

そう呟いて客間へ向かう。

ここ最近は暑い日が続いたから、涼しくて気持ちのいい日になるだろう。

やれやれ、買い物に駆り出されないといいが…


「剣心、いつまでそんなとこに立ってるの?」

「…おろ、あぁ、すまん、雨音を聞いていたのでござるよ。」

「雨音?」

おいで、と手招きして、縁側に向かう。
雨が掛からないように気をつけながら、ゆっくりと目を閉じる。

「今日は小雨だから、音が綺麗だね。」

こっちを向いてにっこりと笑い、柱に寄っかかる。

「そうで、ござるな…」

髪に雨がかかって、それを拭う。

「そこにいると雨に濡れるでござるよ。」

「あ、本当だ…。」

「こっちに。」

滴を払う手を掴み引き寄せ、腕の中に閉じこめる。

あぁ、体が少し冷えている。

「剣心、暖かい…。」

きゅっと袖を掴み胸に凭れる。
顔が綻ぶ、可愛くて…愛しくて…



聞こえるのは雨音、愛しい人の…

「寝てしまったでござるな…。」

穏やかな寝息。



静かな時。

それは雨の日にしか出逢えない。


特別な日。



「おやすみ、夢でも…逢っていると嬉しいでござるよ…」



その唇に一つ、想いを込めて―



end


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