ただ君と、甘い幻に浸る

□弱った君も愛おしい
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「優が、風邪?」

「そうなの、熱も高くて…恵さんが言うには季節の変化で冷えたり暑かったりしたからそれが耐えられなかったんじゃないかって。」

「そうでござるか…」

「それで、私と弥彦は出稽古だし…こんな時に限って左之助はいないし…剣心しか道場にいなくて…」

「今日は優の看病に専念するでござるよ、薫殿。」

「うん、よろしくね。それじゃあ行ってきます。」

「気をつけて。」







****


これが朝薫殿と交わした会話。

今は優の看病中でござるのだが…

「相当…熱が高そうでござる…」

息も苦しそうで、そんな優を見ているだけなんて…

「…剣心?」

「なんでござるか?」

はっ…と我に返り、優を見る。

「お水…もらえる?」

「あ、あぁ、ちょっと待つでござるよ。……起きれるでござるか?」

水を用意し、優の体を起こそうと手を背中に持って行く。

熱い…

「っ…」

「優…起きあがるのは無理でござるな…」

起き上がれないほど辛いみたいで、自分を支えれないようだった。


…あ。


「優。」


「なに?んっ…んぅっ…」



水を口に含み、そのまま優に飲ませる。


飲み込んだのを確認して、ゆっくり離れると、力のない睨みをされた。


「この方が飲みやすいでござろう?」

頭をなでて、くすっと笑うと優は拙者の袖をつかみ言った。

「もっと、飲む…」

「了解、でござる。」

口に含み、優に口移しで飲ませる。
それを数回繰り返すと満足したのかもう充分飲んだよ、と言った。


「今日一日、嫌というほど、甘やかしてあげるから、拙者に甘えてほしいでござるよ。」

「う……やだ。」

「嫌でござるか?」

「だって、恥ずかしいもん…」


「…大丈夫、ここには拙者と優だけしかいないでござるよ。」

にっこりと笑って伝えると、遠慮がちに一言。


「頭…なでて?」

か、かわっ……っ

いやっ、相手は病人相手は病人…

「もちろん、喜んで。」

「ありがと…」


それを皮切りに、優は甘えてくれるようになった。


汗をかいて、体を拭いた後、少し熱が下がった優は…

「だっこ。」


と、まるで無邪気な子供のように。

拙者に、両腕を伸ばした。


壁に凭れて、胡座の上に優をのせる。

ごろごろとすり寄る姿はまるで猫のようで、緩く抱きしめた。

しっかりと上をかけて体を冷やさないようにして暫くそうしていたら、優が徐に呟く。

「剣心、冷たい…」

「おろ?!」

「あ、違うよ、私が多分熱いから剣心の体が冷たく感じるって意味。」

び、吃驚したでござる…っ!

「気持ちいい…」

「それならよかったでござる…」

冷や汗をかいたでござるよ…

ふぅ、と心を落ち着かせていたら、寝息が聞こえてきた。


「おやすみ、優…」


頬に口づけて、可愛い寝顔を堪能する。

優一人なら、さして重くもないし、大丈夫でござるが…


こんな所見られたら一週間はからかわれる…

でも、先ほどよりも幾分か楽になったようなその寝顔を見ていたら。

そんなことは気にならなくなった。




そしていつの間にか拙者も寝入っていたみたいで、視線を感じ目をあけたら、優がじっと拙者を見ていた。


…寝顔、見られていたでござるか?

「おはよ、剣心。」

「おはよう…っていつ起きたでござるか?」

「20分くらい前。」

そんなに長い間…寝ていたのか。

「珍しいからずっと見てたんだ。」

ぎゅっと抱きつく優の言葉に少し羞恥もあったけれど、まぁいいか、と思った。

「ごめんね、重かったでしょ?」

ゆっくり離れようとする優を腕に力を込めて止める。

「大丈夫でござるよ。」

「そ、う…?」

頷くと、嬉々として腕の中に落ち着く優。

「しかし、時間的に薬を飲まなければいけないでござるな…粥を作ってくるから、少しの間ここで…」

「私も行く。」

よっこいせ、と抱き上げ布団に寝かせようとしたら、そう言われ、そのまま粥を作りに向かった。

「…お姫様だっこ、ねぇ…」

「優?」

向かっている途中、優が呟く。

「世の中の女子はこれに憧れてるとは知ってるけど…」

「そうでござったか…」

「すごく、恥ずかしいよこれ。顔近いし抱き上げられてるし。」

また熱があがってきたのか目を閉じながら言う優に、そうでござるか、とだけ言い、壁に凭れさせ、座らせる。

「さ、じっとしてるでござる。」

「ん。」

袂を上げ、料理を始める。
作っている間、ずっと視線を感じていたけど…

それが何だか…

「剣心?」

「あ、え…で、出来たでござる!」

「うん、ありがと。」


客間に移動し、優が粥を食べている間に、恵殿から預かっていた薬を取りに行く。
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