ただ君と、甘い幻に浸る
□それは愛するが故に、
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「優。」
「はいはーい、なに?」
「一つ聞きたいのでござるが、拙者の逆刃刀を知らないでござるか?」
「逆刃刀?ううん、知らないけど。どうしたの?」
「実は…」
剣心が言うには、洗濯し終わって部屋に戻ったら、置いてあったはずの逆刃刀がなくなっていたらしい。
ぶっちゃけ逆刃刀って刃を返さなきゃ人を斬れないし、持ってたって見事に扱えるわけじゃないし…
盗まれたとは考えにくいけど…
「わかった、私も探してみるね。」
「よろしく頼むでござる…」
あーらら…しょぼーんてなってるよ。
(´・ω・`)←こんな感じ。
しょぼーん…
「可愛いわ…」
「おろ?」
「そのしょぼーんが。」
「…?」
真顔で言うと怪訝な顔された。
そんな顔すると探してやんないぞ。
「拙者はもう一度部屋を探してみるでござる。」
「わかった。」
とりあえず探してみますか。
と、敷地内をぐるぐるすること二時間。
一向に見つからない逆刃刀。
部屋は全部みた、道場も見た。
剣心の部屋をひっくり返すほど探した。
もしかしたら裏とかかも。
そう思って道場の裏に行く。
「ん、ない…ってあるわけないか…」
はぁー…とため息がでる。
正直、見つからなくてかなり凹んでる剣心を見てられない。
やっぱり愛刀だもんね。
「ん?」
もうちょっと頑張ろう、と立ち上がった瞬間、裏の入り口に人影が見えた。
っあれは…逆刃刀?!
間違いない…剣心の逆刃刀だ!
誰だろう、見たことがない…どうしよう、とりあえず剣心に知らせて…
「……っそんなことしてたら見失ってしまう。」
追いかけて取り返さなきゃ…!
そして私は逆刃刀を盗んだ男の後を付けた。
***
「優ー?どこでござるかぁー?」
どこにいるのでござろう。
もう日も傾いて直に夜だと言うのに…
まだ探していてくれているのでござろうか。
「おぅ剣心。」
「左之。」
「優ならさっき裏から出て行ったぜ。」
「え?」
「何かあわててたみたいだったけど、どうかしたのか?」
「……拙者探してくるでござるよ。」
「お?おぅよ。」
なにも無ければ良いのだが…
****
「っかしぃなぁ…確かこっちに…」
大分道場から離れてきた気がする…
道も険しいし…
「いたっ…切っちゃった…」
夜になった…
道もわかんなくなってきたし…
「うー…」
やばい、泣きそう。
ううん!逆刃刀!
ぱしっと自分の頬をたたいて喝を入れて前を見ると、逆刃刀を持ち出した男が見えた。
「あれは…っ」
「へへ、これさえなければ抜刀斎など…」
無我夢中だった。
気がつけば…私は男に近づいて、腕を差し出していた。
「返しなさい。」
「っ?!誰だ貴様!」
「その刀は剣心のだ、返して。」
「はぁ?バカか、返してって言われて返すバカはいねぇよ。」
逆刃刀は、剣心の大事な大事な…一部。
「どうしてもって言うなら俺を倒しな。」
「……っ」
駄目だ…刀を持ってない私に勝ち目はない。
だけど…
「剣心の逆刃刀は返してもらう!!」
「っせぇ!!」
「っ!!か…はっ…」
懐に飛び込んだ瞬間、背中に激痛が走る。
「けっ…」
男は逆刃刀を無くすことが目的だったみたいで、それで私を殴った後、捨てて去った。
「……っう…く」
意識が朦朧とする…
痛い、とかじゃない…
「…かた、な…っ」
剣心の、刀…
「よ、か……」
「っ優ーーっっっ!!!」
私の意識はそこでとぎれた。
****
「……………っ逆刃刀!!いっ…つ…」
頭が覚醒して、起きあがると背中に痛みが走る。
周りを見ると、どうやら道場みたいだった…
確か、気を失って…
でも、声が聞こえた。
「けん…しん…」
顔をあげたら、いつものように逆刃刀を抱え座っている剣心がいた。
でも…俯いてて、顔が見えない…
「あの…」
「………なぜ。」
「え?」
「なぜ…一人で行くなど…無茶をしたでござる。」
「知らせに行ってたら…見失ってた…それに、逆刃刀を取られたのがゆるせな」
「相手が抜刀していたら、優は死んでいたかもしれない。」
「で、でも…刃は逆だし…」
いつもの、穏やかな剣心じゃない…怒ってるんだ…
「逆刃刀と知っていたのでござろう?逆にすれば容易く斬れる……鞘だからこそ打撲ですんだでござるよ。逆刃刀よりも命の方が大事でござろう。」
ピリピリとした空気が伝わってくる。
髪で顔が隠れてて表情が見えないから、余計に…
「だけどその刀は剣心のっ…」
「拙者は刀よりも優が大事でござる…っ!」
「け…んしん…」
違う、違うっ…
剣心は…っ
私を心配してくれていたんだ…
私を抱きしめる体が…震えている…
「怖かった…っ、優を見つけたとき、刀で殴られた後のある背中を見て…っ拙者が刀を持っていれば…」
痛いくらいの…
想いが伝わる。
貴方の、私への…
「お願いだから、危ない真似はしないでほしいでござる…」
「…ごめん、なさい……」
傷は二、三日で治って、すぐに日常生活に戻れた。
あの後、剣心にこっぴどく怒られたけどね。
「大体優は危機感が無さすぎるでござる。」
「はい…」
「何かあってからでは遅いと、優が言ったのでござるよ。」
「はい…」
薫ちゃんが止めてくれてお説教は一時間でおわりました。
教訓、普段温厚な人を怒らせてはいけない。
end