ただ君と、甘い幻に浸る
□将来がちょっと不安でござる…
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「ん…」
目をあけたら、少し開いた障子の隙間から、朝日が差し込んできていた。
「朝…か…」
ゆっくりと起き上がり欠伸をしていると、伸びた自分の髪が前に落ちる。
「ここまで長くなると、愛着がわくでござる…が。」
かなり邪魔。
しかし…
「優が、綺麗と言ってくれたし…」
きゅっと紐で結い、着替える。
昇った朝日が目に痛いでござる…
「剣心、おはよー。」
「おろ?早いでござるな。」
体を伸ばしていたら後ろから声をかけられ振り向く。
「目が覚めちゃって…剣心はいっつも早いねー、一回くらい暢気に寝てるとこみたいのに。」
「気配で起きてしまうでござるよ。」
他愛ない会話を広げていると、唐突に優が紐を解く。
「な、何でござるか?」
「適当に結びすぎ。ほら、後ろ向いて。」
やはり寝ぼけながら髪を結うものではない…
鏡など滅多に見ないからわからんでござるよ。
「はい出来た。」
「ありがとうでござ…お"ろ"?!」
「ちょい待ち。」
振り返ろうとすればその髪をぎゅいっと引っ張られ軽く頭が揺れる。
い、痛い…っ
「剣心って、器用なんだか不器用なんだかわかんないね。」
「え?」
「は か ま。」
「??」
ちょいちょいっと指を刺され下を見下ろす。
……見事なまでに結び目が…
「こっち。」
「優?」
「結ぶから、ほら。」
「い、いいでござる!自分ででき…っ」
逃げるが勝ち!と背を向けた途端。
嫌な気配を感じた…時には遅かった…
「いいから座る!」
がしぃっ!とまた髪を捕まれ、く…首が…
「ったく、ほんっと自分に関してはざっくばらんなんだから…。」
「申し訳ないでござる…」
ずきずきと痛む後頭部をさすり、てきぱきと結ぶ優を見る。
……拙者は、なにも考えてないでござるよ。
優と拙者の位置的にちょっとやばいとか思ってないでござる。
「ほい完成!」
ふぅ…
優が天然でよかった…
「どしたの?」
「いや、優は天然で」
「天然から生まれてきたような剣心に言われたくはない!」
て、天然?拙者が?
というか天然から生まれてきたってどれだけ天然…何だかわからなくなってきたでござるよ…
「じ、じゃあ拙者は朝ご飯の支度を…」
「ストップ!」
「おろ?!」
今っ…今変な音が…!
さっきから髪…っ
ぬ、抜けたら禿げるでござる!!
「偶にはゆっくりしてて、私が作るから!」
「優…」
にっこりと言われ、嬉しいのでござるが…
頭が…痛いでござる…
「なら拙者は洗濯を…」
「だから待っ…、」
更に掴もうとする優を、こっちが捕まえる。
「もう捕まらないでござるよ、優。」
朝一番の抱擁でござる…!
「だって長さ的にも量的にも掴みやすいし剣心だってよく薫ちゃんの髪掴んでるし。」
ぼそぼそと喋りながら、腕をすり抜け、べっ…と舌を出す。
「剣心のばーか!」
そのまま走り去っていく優が、可愛すぎて顔がにやけるのを抑えられない。
「…か…可愛い…っ」
ゆるみきった顔など見られたくはないが…
どうしたものか。
end
(みた?あの顔)
(あぁ、にやにやしてるぜ)
(なんか…変質者に見えるわ…)
(………………同感)
知らぬは本人ばかり…