ただ君と、甘い幻に浸る

□特別な用事を頼むのは
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「けーんしんー?」

「どうしたでござるか?優。」

「あ、いたいた。あのねー」


呼ばれてひょいっと顔を出せばこっちへ向かってくる優。


「あぁ、勿論。行くでござるよ。」

「じゃあ後でね!」


とりあえず洗濯を終わらせてから優の用事を…と干し始める。

そういえば……最近、優が綺麗になったでござる。

なんというか、こう、ふとした仕草や表情が凄く綺麗で、焦ってしまうでござるよ…


「あら?剣心、何うずくまってるの?お腹でも壊してるの?あ、まさか変なもの食べたんじゃないでしょうね。」

「いやひどい言われようでござるな…いくら拙者でもそのような…」

「じゃあどうしたの?」


興味津々に聞かれ、女性ならばわかるかも、と思い話してみる。

「優が綺麗になるのも当然よ。」

「当然、でござるか、何かいいことでもあったんでござろうか。」

う〜ん…と頭を回転させて考える。

*お萩を食べた
*甘味処へ行った
*ご飯が好物だった


これは優が先日嬉々として話していた内容でござるが…

「食べ物で綺麗になれ」
「るわけないでしょバカ剣心。」

「しかし…」

「はぁー…あ!優ーっ。」


何やら呆れた表情で拙者に訴える薫殿。
そこへ優が通る。


「なに?」

「剣心がね、」
「あぁ薫殿!言わなくていいでござる!」

「何言ってるのよ、言った方がいいに決まって……あ、自分で言わなきゃ駄目よね、邪魔者は退散するわっ。」

すったかたーと笑いながら道場へ向かう薫殿を、疑問だらけの優が見送る。


「で、どうしたの?」

「いや…その…」

「なになに?」

じっと見つめられ、顔が赤くなる。

意を決して口を開くと、情けないくらい、か細い声だった。

「優が…最近、綺麗で…」

「え?私が?」

一つ頷き、言葉を続ける。

「困るでござる…優を…周りの男には見せたく…なくて…」

「剣、心…」

顔をあげて優を見れば、顔を赤くして、瞳を潤ませていた。

あぁ、それが…綺麗で可愛すぎるのでござるよ…

「みっともない独占欲でござるよ…」

こんなのは…
そう苦笑しながら言えば、ゆっくりと優の体が近づいて、抱きしめられた。

「優…?」

「どうしよう…嬉しすぎてっ…心臓が痛いくらい鳴ってるっ…」

ぎゅっと抱きしめれば、伝わる早い鼓動。

真っ赤になった優の頬に口付けて、言う。

「好き…でござるよ、優。」

「っ…ば、か…恥ずかしくて涙でるからやめてーっ」

目尻に溜まった涙を舐めると、更に赤くなっていく。

可愛い…

「優は言ってくれないのでござるか?」

「何を…」

肩に顔を埋めて、上げようとしない優の耳元で小さく呟く。

「くす…、拙者に好き、と…でござるよ。」

「〜っ!?」

「離れたら駄目でござる。」

「はーなーしーてーっ!」

「嫌でござるよ、抱きついたのは優でござる。」


ぎゅうっと力を入れて、逃がさないように閉じ込める。

「うーセクハラだ!」

「恋人にふれるのはセクハラになるのでござるか?」

「いや私が思ったから。」

じたばたと地味な抵抗を続ける優を落ち着かせようと、唇を近づける。


「けん…っ」


「し…黙って…」



ちゅっ、と音を立てて離れると、力が抜けたのか拙者にもたれ掛かってきた。


「いつもしているのに、どうしたでござるか?」

「今日の剣心…いつもと違う…」

はて、そうなのだろうか。
自分のことはよくわからない…

「いつもは、おろーとか言って目ぇ回してる顔してるのに今日は…なんか格好いいから…どうしていいかわからない…」

……、単純に誉められたのかそうじゃないのか…

いつも目を回しているわけでは…

「おいで、優。」

「う……」


「来ないなら拙者はこれで」
「いく。」

満足げに笑い、優を抱きしめる。


「このままだと、優の用事ができないでござるな。」

「…明日でもいい。」

「そうか、なら今日はこのまま…」


可愛い恋人が頼む、一週間に一度の用事。



『今日、デートしよ?』


『あぁ、もちろん。行くでござるよ。』



それは拙者にしか出来ない特別な用事。




偶にはこうやって、抱きしめていたいでござるよ。



end

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